Pinnacleは先月、典型的なベッティング市場の進化と、どれだけの勝者またはスキルの高いベッターがスポーツベッティングの世界に実際にいるのかという疑問に対してどのようにモデリングすれば回答のヒントが得られるのかという点について、私の考えを公開しました。ここでスキルの高いベッターとは、たまたま幸運で勝ちを拾った人ではなく、長期にわたって期待通りの賞金を得ている人のことを意味します。
不確実な要素が非常に多いにも関わらず、私はPinnacleのようなスキルの高いブックメーカーはほとんどの場合、少なくとも相対的な意味でスキルが無いと見なされるプレイヤーの勝ったり負けたりという行動の多くをおそらく無視しているという結論を得ました。もちろん、これが本当かどうかは当然ながら企業秘密でしょう。しかし、ツイッター上の有名なスポーツベッティングのアカウントで、次のようなつぶやきが腑に落ちました。
「ほとんどの場合、大多数のブックメーカーはパブリックマネーを無視します。ベテランで凄腕のブッキーから以前、『パブリックベットは無いも同然で、その金は自分のポケットに入る』と聞いたことがあります。」
そのことは、実際のオッズの動きを幅広く再現する唯一の方法が、ブックメーカーが注目するスキルの高いベッターの比率が比較的少ないと仮定するモデリングであることからも明らかになりました。次の疑問は、それはなぜかということです。それが私の最新記事のトピックです。
スキルの高いベッターになるには?
ベッティングで生計を立てているスキルの高いベッターのほとんどが、スキルがあるかないかを示す証拠のひとつとしておそらく同意する点は、ブックメーカーよりも先に正確なラインまたはオッズを出せるかということです。
例えば私があなたに、LiverpoolがManchester Unitedに勝つ確率、あるいはLos Angeles Lakers対Golden State Warriors戦の総得点を聞いたとします。あなたはブックメーカーの予想から1%以内の値が出せますか? すでに公表された価格を見て、それが正しいか間違っているかを判断することと、誰の意見も参考にせず、「正しい」値を予測することはまったく別です。
ほぼ間違いなく、ベッターの大多数はスポーツの結果の可能性について、世の中の意見に大きく左右されているでしょう。実際、この認知バイアスで、ベッティング市場の非効率性をある程度説明できるでしょう。
ベッティングは相対的なスキルの競争
ベッティングとは一般的に、ブックメーカーとの競争であると見られています。ブックメーカーを負かせば、あなたが勝つと思われているのです。それは本当とも違うとも言えます。確かに、ブックメーカーが場合によってはその立場を取ることがあります。彼らを倒すと彼らがお金を失い、あなたが儲かります。しかし他の場合には、ブックメーカーはスポーツイベントで何が起ころうが気にしないかもしれません。どちらが勝っても負けても彼らが儲かるようです。
よりスキルの高いベッターになったとしても、他の人のスキルが同時に向上している場合には、必ずしも勝者になれるとは限りません。能力差が縮まれば縮まる程、あなたに起こることはもっと運に左右されます。
実はブックメーカーとは、ベッティングのマージンという非常に不公平な利点を持つ、かなり大きなプレイヤーの一人にすぎません。実際に、ベッティング市場をもっと金融市場(での買い手と売り手)のように見るべきです。そこではあなたのような多くのプレイヤー(バッカーとレイヤー、または意見の異なるバッカー)の意見が反映され、すべての人が自分の資金で意見を表明するのです。
ブックメーカーは単に、一部の情報源を他よりも重視して、金銭的利益と信頼性のトレードオフが最高になるように設定および公表したオッズにおいて、そのお金の流れを示すだけです。
公表したラインやオッズは、多かれ少なかれLiverpoolがManchester Unitedに勝つ可能性や、Los Angeles LakersとGolden State Warriorsが220点以上を挙げる可能性に関するベッターの意見を反映しています。その「本当の」値を予想できる最高の能力を持つ人が、この競争に勝つ最高のチャンスを獲得することは明らかです。
この競争は、相対的なスキルの競争です。単に「本当の」値の予想が得意というだけでは不十分で、他の人と比べてその能力が高くなければならないのです。Novak Djokovicが全豪オープンを制したのはテニスが上手いからではなく、他の誰よりも上手くできたからです。同様に、ベッティング市場でも正しく予想できたら本当にお金がもらえるのではなく、他の人より正しければ実際に支払われるのです。
なぜ勝者が総取りするのか
不幸なことに、シングルベットの二者択一の結果(勝つか負けるかのどちらか一方)が、この長期的視点による真実を隠してきました。あるベットに勝ちお金を得ると、このゲームは単に勝者を選ぶ、またはブックメーカーに勝つだけであるという幻想に惑わされます。
しかしベッティングのサンプル数が少ない場合には偶然性が大きく、ほぼすべての物事がたまたま起こります。この相対的なスキルの競争の傾向が表れ始めるのは、長期的視野で見た場合のみです。
- 参考記事: スポーツベッティングにおけるランダム性
この競争は繰り返し行われ、何度もプレイすると、予想するスキルにおけるわずかな相対的な差異が積み重なります。Djokovicは相手よりわずかに1ポイント勝つ傾向が強いにすぎませんが、5セットの試合を通せば、それがゆえに最終的な勝利を掴むチャンスがぐんと大きくなるのです。
長期的に見れば、勝つのは一番強い人です。ベッティングはポーカーのように、単に相対的スキルのコンテストではなく、勝者が全てを総取りします。
スキルが必要ですが、それは絶対的なスキルではありません。他の人より相対的にスキルが高ければいいのです。そしてブックメーカーが課すデメリットを乗り越えるだけの相対的なスキルが必要です。デメリットとはブックメーカーのマージンで、まさに超強力な競争相手の代表です。
さらに、絶対的なスキルを身に付けたからといっても、他の人が同時にさらに高い絶対的スキルを身に付けていれば、勝つチャンスは増えないでしょう。逆説的ですが、それは幸運以外であなたが勝つチャンスが実際には減ることを意味する場合があります。このモデルがどのように展開するかを見てみましょう。
NBAの試合の総得点を予想できますか?
ほとんどの人は、可能性に関しては直感的感覚を持ち合わせていません。Manchester UnitedとLiverpoolのどちらが勝つかという質問に答えるのは、彼らが勝つ確率を聞く場合より遥かに簡単です。しかし、NBAのようなリーグ戦を行うアメリカのスポーツでは、パーセンテージよりも数値で賭ける機会が増えます。試合には多くの得点が絡むからです。2007年から2019年までのNBAの試合の平均得点は、およそ200点です。
では、競争相手にNBAの試合での得点数の予想を尋ねるというモデルを考えてみましょう。モデルパラメータを次のように設定します。
1.「本当の」数値は200です。
2.平均的な試合の得点数は200ですが、不確実性によりこの平均値に対してばらつきが加味されます。標準偏差を17.5に設定します。これはブックメーカーが200点でラインを設定する試合での、実際の総得点の大まかな標準偏差値です。
3.11人のプレイヤーが、次の試合総得点の予想値で競うとします。190、192、194、196、198、200、202、204、206、208、210。
4.乱数発生器で試合の実際のスコアを決定します。ポイントは次の方式でプレイヤーに与えられます。
a) 各プレイヤーは、他のプレイヤー全員に自分の予想値と最終的な総得点の差異分のポイントを付与します。
b) 各プレイヤーは、他のプレイヤー全員から彼らの予想値と最終的な総得点の差異分のポイントを授与されます。明らかに、プレイヤーの予想値が良ければ良いほど、他のプレイヤーより相対的なポイント取得値が高くなります。
5.この競争を10,000試合について行います。各試合後に11人のプレイヤーの総ポイント数を再計算し、一番ポイントの高いプレイヤーを勝者とします。
6.モンテカルロシミュレーションを使用して、リードしている各プレイヤー、すなわち勝者の可能性を、100試合後、1,000試合後、10,000試合後に決定します。
下の最初のチャートは、モンテカルロシミュレーションの結果に基づき、各プレイヤーが100試合後に勝者になる確率を示しています。当然のことですが、最高の予想をしたプレイヤーは、「本当の」平均総得点に一致する200点にした人であり、一番勝つ確率が高いのです。100試合後には、1/3以上の確率で勝者になっています。100試合後ですら、一番弱い予想をしたプレイヤーはシミュレーションでの勝利数を得るのに苦労していることが分かります。最も弱い6人のプレイヤーが勝利する確率は2.5%以下でした。
次のチャートは、1,000試合後に勝者となる可能性を示しています。ここではトップ3人のプレイヤーのみが勝利していて、勝利の86%近くがトップのプレイヤーとなっています。試合数が増えると、よりスキルの高いプレイヤーの相対的なメリットが蓄積され、複利計算のように勝つ確率が一層増えます。複利については、例えばアルベルト・アインシュタインが「宇宙で一番強力な力だ」と言ったと伝えられています。
10,000試合後のチャートは一目瞭然です。それがどのようになるか、おそらく皆さんにも想像がつくでしょう。200点のプレイヤーが常に勝っています。
技術のパラドックス
ではプレイヤーの絶対的な予想スキルを向上させた場合にはどうなるでしょうか?シミュレーションをもう一度行いますが、今回はプレイヤーの総得点予想を次のように設定します。195、196、197、198、199、200、201、202、203、204、205。プレイヤー11人中10人の絶対的なスキルが向上しています。次のチャートは、勝利の分布確率を示しています。
「本当の」値と同じ予想値のプレイヤーがやはり最高で、100試合後では多くの場合に勝者となっていますが、その確率は約34%から約19%に下落しています。同様に2位のプレイヤーも、1回目のシミュレーションより絶対的なスキルが向上しているにもかかわらず、前回ほど良くありません。
2位のプレイヤーは、最初のシミュレーションでは198点と予想していて、勝者となる確率は22%でした。今回は199点と予想しましたが、勝者となる確率は15%に下落しました。それと同時に、弱いプレイヤーが競争に勝つ確率が増えたのです。今回、最も弱い6人のプレイヤーが勝者になる確率はほぼ1/4です。
1,000試合後では当然ながら強いプレイヤーが勝者になる確率が増えますが、それでも最初のシミュレーション程ではありません。
最初と2番目のシミュレーションで何が起こったのでしょうか? まず、やはり「勝者総取り方式」なので、単に結果が出るまでに時間がかかります。10,000試合後でも、まだ1.6%の確率で最高のプレイヤー以外の人が勝者となりました。
次に、2番目のシミュレーションではプレイヤーの絶対的なスキルが向上した一方、彼らの間の数値のばらつき(分散)が半分になりました。結果のばらつきは一般的にスキルのばらつきと運不運のばらつきの組み合わせなので、前者が低下すれば、後者の影響力が増します。逆説的ですが、競争しているプレイヤー全員の絶対的なスキルが向上し、さらに大事なことにスキルのレベルの差異が狭まれば、スキルが結果に与える影響は低下します。これは「技術のパラドックス」と呼ばれます。
- 参考記事:技術のパラドックス
もしブックメーカーが大多数のベッターにスキルが無いと考えているなら、十分な相対的スキルを持つプレーヤーが勝者になることは簡単ではないでしょうか? そうです、あなたはスキルの無いプレイヤーに勝てます。しかしより良いモデリングの背後で絶対的な高いスキルを持つプレイヤーの数が増えれば、おそらくスキル間のばらつきは減ります。絶対的スキルは向上しますが、相対的な差異が縮まります。
ブックメーカーがスキルの低い行動のほとんどを無視したとしても、そのラインや価格は依然としてそれ以外のプレイヤーを反映しています。そしてより多く市場でプレイすると、より多く彼らと競争することになるのです。
次のチャートは、3人の比較的スキルの高いプレイヤーが8人の比較的スキルの低いプレーヤーと競争した場合を示しています。1,000回のシミュレーションを行い、そのどれでも、1,000試合後にはスキルの低いプレイヤーが誰も勝てなくなりました。
この分布を次の分布と比べてみます。スキルの高いプレイヤーがより多く、また絶対的なスキルの平均も高いのですが、相対的な差異が減少しています。スキルの低いプレイヤーはやはり勝てませんが、スキルの高いプレイヤーの結果はより強く運に左右されています。ベッティングはゼロサムゲームで、勝者総取り方式の相対的なスキルによる競争ですが、プレイヤー間のスキルの差が小さいほど、たとえ一部のプレイヤーであっても、運が結果をより大きく左右します。もうこれで、なぜ一部のプロのベッターが、勝者で居続けることがだんだん難しくなってきたと言う理由がお分かりでしょう。
あなたはブックメーカーに勝てるほど優秀ですか?
既に述べたように、ベッターが立ち向かう最強の競争相手はブックメーカーであり、おそらくそれが、いまだに多くの人がブックメーカーを倒して利益を得るという考えを持っている理由でしょう。ブックメーカーは(大抵は)最高のモデルを持っているだけでなく、あなたの利益の一部を持っていくことで、あなたの効率性を減らすこともできます。
この記事の最後のチャートで、彼らのモデルがいかに優れているかを見てみましょう。これは、彼らのラインと実際の試合の総得点を比べたものです。データはSportsbook Reviewから得たもので、NBAのクロージングラインと、2007年10月30日から2019年5月5日までのNBAの15,508試合のスコアから成り立っています。
平均すると、ブックメーカーがラインを190、200、210と提示すると、試合はそれぞれ190、200、210点で終了しています。確かに、結果には既に述べたようにランダムなばらつきが生じますが、これは重要です。200点のラインを提示されたゲームのほぼ1/3が、実際は182点未満または218点超で終了しています。
しかし長期的に見ると、ブックメーカーは大したものです。非常に優秀です。彼らに勝つには、そのマージンを超えなければなりません。価格が-105または1.95(つまり手数料が2.5%)の場合、約51.3%のベットで勝たないと元は取れません。価格が-110 または1.91(手数料5%)だったら52.4%に上昇するのです。
- 参考記事: あなたはどのようなタイプのベッターですか?
実際の結果での標準偏差を考慮して、それぞれ約0.5ポイントと1ポイントに変換します。それほど多くに思えないかもしれませんが、ブックメーカーがあなたよりも間違った試合が何百または何千というほど多くありますか? 上のチャートをもう一度見て考えてください。
ベッティングを真面目に考えているなら覚えておくべきこと
スポーツベッティングは非常に楽しいものになり得ますが、ほとんどの場合、レクリエーションとしての趣味と見なすべきです。しかし、もしあなたがそれで生計を立てたいと思うなら、あるいは毎年の休暇費用を捻出したいと思うなら、次に挙げる4点を理解することが重要です。
1.ベッティングとは、相対的なスキルの競争です。未来を予測することが得意でもお金は得られません。他の人より得意な場合にだけ、お金が得られるのです。
2.よりスキルの高いベッターになったとしても、他の人のスキルが同時に向上している場合には、必ずしも勝者になれるとは限りません。能力差が縮まれば縮まる程、あなたに起こることはもっと運に左右されます。
3.長い目で見ると、比較的高度なスキルを持つ勝者が総取りします。競争は繰り返し行われますが、多くの回数を繰り返すと、わずかなスキルの差でさえも、時と共に非常に不均一な賞金の分布を示すようになります。
4.最後に、ベッティングはゼロサムゲームです。賞金総額は有限で、プレイヤーの人数で制限されます。敗者が勝者に支払い、勝者総取り方式の効果のため、敗者は勝者よりずっと多いのです。
賭けを楽しんでください。しかし失って困るお金は賭けないでください。