ベッターはよく、市場を上回るエッジを見いだすことにかなりの時間を費やします。何とか探し当てる人もいますが、そのような離れ技をなかなか成し遂げられず、苦労している人の方がずっと多いことでしょう。ベッティングでは、エッジを見つけることに加えて、賭け金も非常に重要です。エッジがわからない場合、賭け金をいくらにすればよいのでしょうか? 詳しくは続きをお読みください。
2020年5月、予想屋向けプラットフォームPyckioの2人の株主(Andrés Barge-GilとAlfredo García-Hiernaux)が『Journal of Sports Economics』に論文を発表し、収益性の高いベッターが実際の勝率を推定することができない状況下でどのように賭けるべきかを論じました。
Barge-GilとGarcía-Hiernauxは、スポーツベッターは正確に勝率を推定することはできないという認識であることを示唆しているのですが、長期的に一貫して利益を出したいと考えるベッターがそのような状況下でも活動するべきかどうか、という部分には議論の余地があります。
ただそれでも、この研究は、さまざまな賭けの手法をケリー基準の変化形として解釈し直す方法に注目している点で、非常に興味深いものです。この記事では、2人の試みを概説し、彼らの出した答えが実際に改良できるものかどうかを見ていきたいと思います。
ケリー基準によるさまざまな賭けの手法の再解釈
スポーツベッティングの資金管理でもっぱら話題となるのは、賭けの手法としてケリー基準を使うことでしょう。実際、Pinnacleのベッティングリソースにもこれをテーマにした記事が多くあります。私自身も、いくつか書いたことがあります。特に、確定前に1回だけベットする単純なケリー式の賭けの場合、平均予測が正確である限りは、この戦略によってベットごとのアドバンテージを正確に知らないというリスクに対応できるということを説明しました。
論文の中で、Barge-GilとGarcía-Hiernauxは、真のベットの確率について正確な推定値がわからない場合、 ベッターはケリー基準をやめて、別の資金管理手法に頼るべきだと提案しました。
損失額単位
1つ目は、損失額単位賭け、つまり均等賭けの手法です。この場合、ベッターはオッズに関わらず、すべてのベットに同一の賭け金を賭けます。オッズが高くなるほど、そのイベントで勝った場合の資金に与える影響も大きくなりますが、ベットで勝つ確率も低くなります。
損失額単位賭けは、期待値つまり期待収益がオッズに対して直線的に比例するケリー手法として組み直すことができます。ケリー基準による賭け金は、EV / odds – 1 (ここでEVは期待値を表し、考えられる利益は0より大きいものとする)で表されるので、損失額単位の手法はこの割合が常に一定であることを示します。
例えば、EVが10% (0.1)、オッズが2.00で賭け金が0.1だったとします。オッズが4.00に上がると、賭け金を0.1のままにしておくためには、EVは30% (0.3)でなければなりません。オッズが101.00だとすると、EVは10、つまり1,000%ということになりますが、これは少々現実味がありません。真のオッズがほんの9.18だと示すことになります。ブックメーカーがそんな大きなミスを犯すことはありえないでしょう。
実際、オッズが無限大に近付くという制限の中では、真のオッズは賭け金分の1で表される最大値、つまりこの例では10に近づく傾向があることになります。損失額単位賭けに対しては、高いオッズでのリスクがあまりにも大きい、勝つ可能性が低いという批判があります。ケリー基準の提唱者にとっては、この手法はEVが本当にオッズに比例して増加する場合にしか意味をなさないものであり、見てわかるように、信頼できるものではありません。
勝利額単位
ベッターがよく使う2つ目の資金管理手法は、勝利額単位賭けです。この場合、オッズにかかわらず、勝って得られる利益が同じ金額になるように賭け金を決めます。目標の勝利額、つまり目標利益が€100だとすると、オッズ2.00の場合、必要な賭け金は€100ですが、オッズが5.00であれば必要な賭け金は€25です。賭け金の大きさは、オッズ– 1の逆数に比例します。ケリー基準に関して言うなら、勝利額単位戦略は、EVはケリー基準とはまったく無相関であり、ベッティングオッズに関わらずEVは常に同一であるということを示唆するものです。
勝利額単位賭けに関しては、何かがおかしいように思われます。オッズが1.11であろうと111.00であろうと、ベッターのアドバンテージがまったく変わらないなどということが実際にあるものでしょうか。偏差から考えると、これはあまり現実的ではないと言えそうです。実際に、オッズ111.00のEVが20% (0.2)の場合、オッズ1.11でEVが完全に同じであれば、真のオッズは1より小さいということになりますが、これは明らかにナンセンスです。何かが起こる可能性が100%を超えることはありません。
影響額単位
Barge-GilとGarcía-Hiernauxは、ケリー基準での賭け手法により適しているという仮説から、影響額単位という賭けの手法を提案しています。影響額単位賭けの手法は、勝ちと負けで資金に生じる差額を一定に保つものであり、オッズがどれほど高くても低くても同一です。
影響額単位賭けは、オッズの逆数に比例するものであり、オッズ– 1の逆数に比例する勝利額単位の手法とは反対になります。したがって、オッズ2.00で賭け金が€100の場合、オッズ5.00で影響が一定である賭け金は€40となります。どちらのケースでも、勝った場合と負けた場合の差額は€200 (最初のケースでは+€100と-€100、2番目のケースでは+€160と-€40)です。
影響額単位賭けでは、EVはオッズ– 1 / オッズに比例します。これはつまり、EVは、オッズが高くなるのに伴って高くなるが、この割合は急激に1に近付いていくため、レートが限界に向かって下がるということです。例えば、オッズ2.00でEV = 0.1の場合、EVの限界は0.2となります。このシナリオは、EVが変動しない勝利額単位賭けほど極端なものではありませんが、やはり、オッズが高くなりEVが高くなる場合の可能性を低く見ているようです。
成功しているレースの予想屋は、一般的に、アジアンハンディキャップ市場やポイントスプレッドに注目する予想屋の2倍をかなり超える収益を出していると考えられます。ただし、これは彼らの方が必ずしもスキルが高い(または幸運である)ことを示すわけではありません。彼らの側の変動が大きいというだけです。
Barge-GilとGarcía-Hiernauxによると、下の図は、オッズ2.00に対してEVが3%であるとした場合に、3種類の異なる賭け手法においてオッズによりそれぞれのEVがどのように変化するかを示します。

前述のとおり、損失額単位賭けと勝利額単位賭けでは、どちらの場合も、オッズとEVとの非現実的な関係が示されているように思われます。
Barge-GilとGarcía-Hiernauxは、Pyckioのベッティング予想データベースを分析しました。そして、影響額単位賭けの示すEVとオッズとの関係が、予想屋で観測された収益と期待収益の両方(後者はクロージングプライスに基づく)を最もよく反映していることが確認できたと信じています。しかし、何か釈然としません。前にも言いましたが、影響額単位賭けでは、EVは最大でも、オッズ2.00でのEVの2倍にしかならないのです。もっと優れた手法はないでしょうか。
t分布の再検討
3年前、私はPinnacleのベッティングリソースで、ベッティングの予想屋を評価し、スキルから運を読み解く際にt分布を使う方法を紹介しました。正規分布と同様に(また、母集団の標準偏差ではなくサンプルしかわからない場合には代わりに使用されますが)、この方法は、母集団の平均がわかっているという仮定で、特定のサンプルがどれほど見込みのないものかを判断する場合に役立ちます。
記事では、t分布を広く使用し、ベッターにスキルがないという仮定の下、ベッティングの実績が偶然で起こり得た可能性をベッターが示せるようにしました。この可能性が低いほど、偶然だけでベッティングの利益を出していたのではなかったのだと、主観的に自信を深めることができます。
この検定の中心となるのが、t統計量またはtスコアであり、ここから確率を導くことができます。損失額単位賭けについては、成績におけるベッティングオッズにそこまで幅がない場合、この統計は次の式で概算できます。
nがベット回数、oが平均オッズ、rが投資のリターンつまり収益+ 1です。
ハンディキャッパーにはおなじみのZスコアのように、これは本質的に、ベッティング収益が予測平均のゼロ値からどの程度外れているかという標準偏差の数値を測るもので、ベッティングスキルがなく、フェアオッズに対する場合を想定しています。例えば、tスコアが2だとすると、スキルがない前提では、ベッターが実績として獲得した以上の収益を上げられると期待できるのは、そのうちの約2.5%しかないということになります。つまり、tスコアは尤度の一種です。tスコアが大きくなるほど、観測の可能性が下がります。これを使用して、ベットしているオッズによってEVがどう変わるか(ただし、スキルはないと仮定)を見ていきましょう。
リターンの非対称性
勝率80%のチームに賭けるとします。フェアオッズは1.25です。ブックメーカーが誤って、勝率を75%と考えているとします。ブックメーカーはプロモーションを実施しており、マージンはありません。ブックメーカーのオッズは、1.333です。したがって、ベッターのEVは6.667% (1.333/1.25 – 1、つまり0.80/0.75 – 1)です。
次に、2つ目のシナリオについて考えましょう。真の確率は20% (フェアオッズは5.00) ですが、ブックメーカーは15%だと信じています(公開されたオッズは6.667)。この場合、ベッターのEVは、33.33% (6.667/5.00 – 1、つまり0.20/0.15 – 1)です。ベッターとブックメーカーが推定した予想勝率の差は完全に同じですが、EVの大きさは5倍違います。EVに関して言えば、オッズが高くなるほど、同等の誤りから生じる事態もさらに重大なものになります。しかし、こういったエラーは、どの程度起こるものでしょうか。
確率の対称性
上記のtスコアの公式を書き直してみましょう(すべてのベットでオッズは同一のoを仮定)。pがブックメーカーのオッズ(つまり1/o)、qがベッターの推定した可能性(予測モデルが正確であればこれは「真」)だとすると、r = q / pであることがわかっているので、次のように表すことができます。
ベット回数nが、100であるとします。q = 0.8、p = 0.75であれば、t = 1.25です。ただし同様に、q = 0.2でp = 0.15の場合も、やはりt = 1.25です。実はベッターのモデルではなく、ブックメーカーが正しかったとすると、その場合tスコアは10.7%という結果の確率になります(ExcelのTDIST関数を使用)。
100回を超えるベット全体では、確率10.7%でのオッズ1.333の収益は6.667%以上、オッズ6.667での収益は33.33%以上になると期待できます。高いオッズで収益が大きくなるということは、低いオッズで収益が小さくなるということと同じです。これが、レースの予想屋がハンディキャッパーより優れて見える、あるいは負ければより劣って見えるという幻想の理由です。
- 参考記事:サッカーの試合のプライスを計算する方法
この確率の対称性を以下の表に示してみました。ポイントを示すため、値は極めて単純なものにしてあります。明快にするためです。ほとんどの場合、このようにうまく、あるいは悪く行えるベッターはいません。
最初の表は、さまざまなpとqの組み合わせに対するEVの非対称性を示しています。2つ目の表は、tスコアの対称性を示しています。視覚的にはっきりさせるため、tスコアの絶対値(q < pの場合にEVのマイナス記号を削除したもの)を示しました。p/qが0.3/0.7の組み合わせが0.7/0.3の組み合わせと同じ確率であるだけではなく、前述の理由により、0.7/0.5と0.3/0.1、0.8/0.7と0.2/0.1も同じ確率です。

新しいEV-オッズ関数
あるオッズとEVに対する確率tがあります(これはベット回数が4倍になると2倍になる)。これを表すtスコアの式をrについて組み直します。これは、ものすごい解を持つ、なかなか手ごわい二次方程式になります。
オッズ – 1 / オッズよりもずっと厄介な数式ですが、EV = 0.03とオッズ= 2.00のシナリオで考えてみましょう。これを、損失額単位、勝利額単位、影響額単位の賭け方に関する前出のEV-オッズ関数と合わせて以下に示します。
関数を記述するのは難しいかもしれませんが、統計的確率の観点から期待収益を解釈するのだと考えれば、もっと直感的に理解できるようになります。影響額単位賭けでは、オッズ2.00でのEVが3%の場合、EVが6%より大きくなることはありません。しかし、私の関数を使うと、EVは損失額単位賭けほど非現実的な増え方ではないものの、どこまでも大きくなり、統計的な分散から予測されるEVと一致します。オッズ10では9.4%、オッズ50では23.3%、オッズ1,000では150%です。
tスコアに基づくこの関数には、ベッターにスキルがないことを前提にしているという、明らかな批判があります。スキルというものが存在しないという仮定の下、物事が起こる確率を表しているにすぎないと。ただ、これは誤解です。スキルが存在するとしても、分散に関連する同じ統計法則が適用されます。
オレンジの曲線の位置は変わりますが、形はそのままになります。さまざまな幸運度あるいはスキル(呼び方はどちらでも)を持つベッターについて、考えられる軌跡をいくつか下に示しました。オッズ2.00でEVが3%であるもともとの曲線は、そのままオレンジ色で示しています。
その他に、どのようなスキルもオッズとは無関係であるとか、どのようなスキルであれ同じだとか、そのような仮定まであるという批判が出る可能性もあります。本命-大穴バイアスのような市場の非効率性を考えると、これは適切な仮定ではないかもしれません。
関数の検証
この新しいEV-オッズ関数について、その有効性を確かめることはできるでしょうか。私の「集合知」ベッティングシステムは、TwitterやFootball-Dataで私をフォローしている人ならご存じだと思いますが、Pinnacleの効率性の高いオッズを利用して、他のブックメーカーのオッズで利用できるEVを推定します。
過去にさかのぼって2012/13年シーズンのサッカーのヨーロッパ国内リーグの試合におけるオッズデータのサンプルを使用すると、利益の出るEV(>0)を利用できる状況が55,237件見つかりました。EVの平均は2.20% (記録では、損失額単位賭けでの実績が1.77%であり、モデルエラーの統計的なマージン内)であり、平均オッズは3.30でした。これらの数値から、私の二次方程式を使って上に示したようなEV-オッズ関数曲線を描くことができます。これが下図のオレンジの曲線です。
これをまずは平均予想勝率1% (グラフではオッズとして表示)の実際のモデルEVと比較し、次に影響額単位賭けで予測されるEV-オッズ関数曲線と比較します。完全な一致ではないものの、EV-オッズのtスコア関数は、ほぼ間違いなく、ベッティングオッズに基づいて大まかなEVを予想する際にかなり役立ちます。
論理的根拠
観察力の鋭い人が見ていたならば、こう言われるかもしれません。すべてのベットについて集合知モデルで明示的に予測を行う場合に、EV-オッズ関数を使ってさまざまなオッズのEVを予測することに、一体全体どのような意味があるのでしょうか、と。これは本当にもっともなご意見です。この記事のほとんどの部分は、かなり理論的なものだったと考えられます。
それにも関わらず、正確なモデル(平均した場合)であっても、それぞれのベット単位では認識論的不確実性が存在します。さらに、偶然的(あるいは固有の)不確実性によって、真の勝率の評価が実質的に不可能となります。
- 参考記事:ブックメイキングの不均衡
この演習の目的は、Barge-GilとGarcía-Hiernauxと同じように、定量的な不確実性が認識されている状況で、または予測モデルが勝率を明確に推定していない場合に、または予測の手法がデータを演算処理するというよりも直感的な質のものである場合に、大まかなEVの推定を試みるための方法を説明することでした。オッズがわかれば、この手法でEVを推定できます。そしてEVがわかれば、どのケリー基準賭けを使うべきか判断できます。
このtスコア手法は確かに複雑かもしれませんが、その結果は、勝率、期待値、および結果の確率の関係性というより直感的な推論から導かれるものであり、さらに、実際の収益がベッティングのオッズでどのように変化するかもわかるようになります。ケリー基準の提唱者にとっては、この手法は影響額単位賭けよりも役に立つと思いますし、実際、損失額単位賭けと勝利額単位賭けよりも優れています。