私が書いたピナクルの最新記事では、破産を題材に考察し、いくつかのシナリオを通して、さまざまなタイプのベッターについて破産の可能性を探りました。人工知能の専門家であり、またWinnerOddsのオーナーであるMiguel Figueres氏は、自らの電子書籍『How to Beat the Bookies』で「自分のやり方を変えたり、ベッティングを止めたりするのに、(破産するまで)待つベッターは滅多にいない」と、関連性の高い指摘をしています。
むしろ、典型的なベッターは、それよりもずっと前に戦略を変更したり、ゲームから完全に抜けてしまったりします。どの時点でそうなるかは、リスクに対するベッターの姿勢に大きく依存するものですが、これを明らかにしてモデル化する手法があれば便利です。ドローダウンと最大ドローダウン(MDD)というのは、金融投資の世界ではよく知られた概念です。この記事では、それらの意味と、そこから何を予想できるか、またどのように対処していけるのかを見ていきましょう。
ドローダウンと最大ドローダウンとは?
Investopediaでは、ドローダウンを「ある投資について記録された特定期間におけるピークから底までの低下(率)」、最大ドローダウンを「次のピークがくる前に生じるピークから底までの最大低下(率)」とそれぞれ定義しています。ベッターの戦績というのは、タイプとしては金融投資の進展とほぼ同じですから、これらの概念は直接ベッティングの世界に移行できます。
また合理的に、最大ドローダウンというのは、ベッターが現実的に耐えうる範囲での資金の最大減少と同義であるとも考えられるでしょう。電子書籍の中でMiguel氏は、まったく主観的な値ではありますが、50%という数値を検討しました。そういう訳で、最大ドローダウンの期待値をベッティング体験のリスク管理という視点でモデル化できるとするなら、これが役に立つ可能性があります。
最大ドローダウンに影響を与える要因
Miguel氏は、最大ドローダウン(MDD)の大きさに影響する数々の要因を特定しています。当然ながら、利益期待値(と収益)が優れているほど、予想されるMDDは小さくなります。同様に、他の条件がすべて同じであれば、高いオッズに賭けるベッターほど大きなばらつきを体験したり、大きな資金の変動、つまりはMDDが大きくなるリスクを負ったりすることになります。
Miguel氏は、予想されるMDDはベット数に応じ対数的に増大するとも述べています。たとえば、単純な五分五分の2つのプロポジションで、2n回賭けた場合の最長連敗シーケンスの長さは、nにほぼ等しいと予想されます。
予想される最大ドローダウンのモデリング
Miguel氏にならい、一連の1,000回賭けのレベルステークス(1ユニット)を通して、あらゆるベッターのシナリオに関する予想MDDを(ユニットで)モデル化するため、大量のモンテカルロシミュレーションを実行しました。2%から20%まで(2%間隔)の期待収益を、次の異なる5つのオッズ(1.5、2、3、5、10)で、合計50のシナリオを作成して検討しました。それぞれを10,000回繰り返しました。次の表は、予想MDD(平均)をまとめたものです。
期待収益
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オッズ1.5
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オッズ2
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オッズ3
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オッズ5
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オッズ10
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2%
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20.5
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31.3
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47.0
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69.4
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106.6
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4%
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16.1
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26.1
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41.2
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63.1
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100.1
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6%
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13.3
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22.4
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36.6
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57.7
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94.0
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8%
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11.3
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19.6
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32.9
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53.1
|
88.6
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10%
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9.8
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17.5
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29.9
|
49.3
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83.8
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12%
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8.7
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15.8
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27.4
|
46.0
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79.5
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14%
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7.8
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14.4
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25.4
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43.1
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75.7
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16%
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7.0
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13.3
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23.7
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40.5
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72.3
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18%
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6.4
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12.3
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22.2
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38.3
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69.1
|
20%
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5.8
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11.4
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20.8
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36.4
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66.1
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およそ2倍のオッズに賭けている、典型的かつ賢明なハンディキャップベッターについて検討しましょう。53%の的中率では、約6%の利益を示しています。一連の1,000回のベットを通して、前の高値から約22ユニットの最大ドローダウンを経験すると予想することができます。
一貫性のなさや、最適とは言えないパフォーマンスを招く最大の原因は、意思決定における感情的な乱れです。
今度は逆に、平均しておよそ5倍のオッズにかけて14%の利益を上げる、典型的かつスキルのある競馬ベッターについて検討します。この場合、MDDはほぼ2倍(43ユニット)です。オッズが高いほどパフォーマンスが下がるため、予想MDDは100ユニットを超える場合があります。100ユニットの資金で始めると無一文、ということです。
もちろん、以前の記事で述べた通り、一般には、オッズの高い賭けでばらつきを経験するベッターほど、低いオッズを好むベッターと比べて賭け金を下げますから、絶対値ではMDDが小さくなります。
上記の表の数値は、適切な賭け金の大きさがどの程度かを見定めるのに役立つはずです。たとえば、0.25ユニットまで賭け金を下げると、オッズ10倍で4%の利益を上げるベッターのMDDは、100ユニットから25ユニットまで下がります。100ユニットの資金で開始する場合であれば、それほど受け入れ難くもないでしょう。
最大ドローダウンの確率分布
もちろん、上記の表からは平均で予想されるMDDがわかります。運の良し悪し次第でどの程度の幅が出るかについては、あまりわかりません。これについては、いくつか確率分布を描く必要があります。1番目の図は、オッズ2倍に賭ける場合の10のシナリオを示したものです。

各シナリオでは、確率分布は正の方向への歪みであり、非常に大きなMDDが発生する可能性のせいで右側の方に長く伸びています。結果として、各シナリオの平均あるいは予想されるMDDは、中央値と最頻値の両方より大きくなります。(最頻値の、つまり最も一般的なMDDは、各分布の最高点となります。)曲線の不完全さは無視します。この不完全さは、私の計算処理能力では対応できませんが、さらに多くの回数のモンテカルロ法を繰り返すことで消えるものです。
利益が6%の場合を考えます。最も一般的なMDDは、18ユニットでした。ただし、平均は22ユニットでした。また、私の10,000回の繰り返しにおいては、3分の1近くが25ユニット以上であり、最大では73でした。平均は参考にはなりますが、確率分布の形からは、幸運なシナリオと不運なシナリオで予想される範囲に関して、有益な情報を追加で得ることができます。
2番目の図は、さまざまなオッズで利益が10%となる5つのモデルのシナリオを示しています。起こり得る結果の分布は、実にさまざまです。たとえば、オッズ10倍のベッティングでは、予想されるMDDは84ユニットですが、モンテカルロ法を繰り返したうちの4分の1が100以上であり、中には302という高い数値までありました。
高いオッズに賭けるスキルのあるベッターならば、このような1万分の1の事象では間違いなく、100ユニットの資金に対して0.1の賭け金として、MDDを許容できるレベルまで下げる必要があります。

ドローダウンの心理学
ベッティングで損をするのが好きだという人はいません。そんなことは明らかです。しかし、損失というのは、それだけでは済まない問題です。以前の損失を回復させるためには、さらに大きな成長率が必要になります。なぜならドローダウンにより、勝つことで収益を上げていた可能性のある資金が使えなくなるからです。問題は指数的に大きくなります。
10%のドローダウンを回復するのであれば、11%の成長が必要です。しかし、50%のドローダウンを回復するには100%の成長が、また75%のドローダウンを回復するには300%の成長が必要になります。
お金の損得という感情を抜きにできるなら、スポーツベッティングというローラーコースターに対応する準備が一段と進むことになるでしょう。
さらに、Daniel Kahneman氏とAmos Tversky氏は、行動心理学に関する著書の中で、相対的に言って、損失による傷は勝利の喜び以上のものであり、平均して2倍以上になると述べています。ここから考えると、資金が50%成長した場合には、成功について自己を肯定する説明を語るようになる一方、同等のドローダウンが生じた場合には、手法を支える根拠やベッティングの理由すべてにさえ疑念を抱いてしまうのも、意外なことではありません。
いずれの結果についても、それが発生した理由について何か新しい情報がなければ、その原因について誤った結論を引き出す傾向が高まります。成功によって、自身の予測能力に対する過剰な自信が生まれ、通常見込める偶然性よりも強く自分自身を信じるようになるでしょう。
その一方で、人は失敗をすると、本当の長期的な予測が完全に論証される機会を得る前に、手法を捨て去ろうとします。極端な話ですが、自分が何年も前に、たった10回ベットしただけのベッティングシステムを放棄したことを思い出します。10回中8回を負けた時でした。これが、損失回避の力です。
ドローダウンを管理する方法とは?
稼げるベッターは誰でも、どこかの場面で大きなドローダウンに直面し、自身の戦略に疑問を抱くことになります。これにうまく対処する方法を身に付けることが、一番の難関かもしれません。一貫性のなさや、最適とは言えないパフォーマンスを招く最大の原因は、意思決定における感情的な乱れです。
プロのスポーツベッターは、ベッティングから感情を取り除こうとします。これがうまくいけば、ベッターは損失に対してのみならず、勝ちにも無関心になるはずです。当然、感情を切り離した状態になるには、自分の長期的な能力に対する一定レベルの自信と、それを裏付ける証拠が必要です。
以前の損失を回復させるためには、さらに大きな成長率が必要になります。なぜなら、ドローダウンにより、収益を上げていた可能性のある資金が使えなくなるからです。
損失を追いかける愚か者、というのはベッティングにおける黄金律の1つです。しかし、勝っている時には賭け金を増やす、という真言は、ケリーのマネーマネジメントの変形を通して詳細に管理するのであれば話は別ですが、それほど壊滅的でない限りはただの誤りです。
上記に挙げた両方とも、ギャンブラーの誤った推論の例です。損得の進展における本質的な偶然性を無視するもので、利益の出る長期的な期待を持つベッターにとってすら誤りです。手元にあるベッティング履歴のデータでは、あるベッターがたった278回の連続ベッティングで4桁の利益を出した後、約€50から€400まで劇的に賭け金を増やしました。そして、そのほぼすべてを、わずか100回強のうちにまた失いました。
私の著書『Science, Psychology and Philosophy of Gambling』では、インテリジェントなベッターを構成する特徴をまとめて締めくくりました。そこに挙げた特徴はすべて、ベッティングから感情を取り除き、ドローダウンにうまく対応する方法を身に付けるのに役立つはずです。
インテリジェントなベッターは、決定論的に考えるのではなく、確率論的な計算によって考えます。ベッティングで発生することはほとんどが運によるものであり、原因と結果には極めてゆるい繋がりしかないという認識です。頭の中で因果関係を考えたくなる誘惑に抵抗します。結果を見てあれが原因でこうなったと考えるのではなく、自身の予測手法を見て、どの程度の頻度で勝ちと負けを生むのか分析します。
ベッティングのプロなら誰もが知っている通り、個々のベットの確定では、その潜在的な価値について述べることにほとんど意味はありません。むしろ反対に、ひょっとするとこれが何よりも重要かもしれませんが、インテリジェントなベッターは低い期待値で勝つ以上に、高い期待値で負けることを好む可能性があります。お金の損得という感情を抜きにできるなら、そして、ベッティングの期待値のみに着目できるならば、スポーツベッティングというローラーコースターに対応する準備が一段と進むことになるでしょう。