パート2:ブックメーカーは得点スプレッドでポジションを取るのか?

調べていくデータについて

スプレッドを掘り下げる

体系的? それともランダム?

パート2:ブックメーカーは得点スプレッドでポジションを取るのか?

この記事のパート1では、ブックメーカーが得点スプレッドのマーケットでポジションを取るのは、ベッティングマーケットのフェイバリットへの過度な期待によるものだという考えを紹介しました。パート2では、最近のNBAのデータを利用しながら、記事のタイトルにもなっている疑問への答えを追究します。詳しくは、この記事をお読みください。

ブックメーカーは得点スプレッドベッティングマーケットでポジションを取るのでしょうか? 2つのパートに分かれるこのベッティング記事。その初めのパートでは、なぜそのような可能性があるのかを述べる思考実験を提案し、「ブックメーカーは利益を増やすために、フェイバリットがスプレッドをカバーすると信じたがるベッターの傾向を利用して、NFLのスプレッドのプライスを操作している」と示唆する経済学者Stephen Levittの実証を再検討しました。

このような規則的なバイアスは、直感的な自信によって説明することができます。つまり、ベッターがそのチームの勝利を強く確信すればするほど(本命としての認識が強いほど)、そのチームが得点スプレッドもカバーするだろうとより信じやすくなるということです。

Levittは、「NFLの得点スプレッドマーケットでは、ベッターの60%がフェイバリットを後押しすることを好む」ということに加え、「フェイバリットがスプレッドをカバーする確率は48%にすぎない」ということも発見しました。理論上のマージンが2.5%のブックメーカーの場合、そのような行動の分散によって利益を3.3%に増やすことができる可能性があります。 

それでは、これと似たようなバイアスが、より最近のNBAのベッティングマーケットにおける得点スプレッドデータでも見られるかどうかを検証してみましょう。

調べていくデータについて 

この分析には、Sportsbook Reviewsによって利用可能になったNBAのスコアとラインの12シーズン分のデータセットを使用しました。分析期間は、2007年10月30日から2019年5月5日までの日付で、NBAの15,508試合が含まれています。使用したスプレッドの値は、いずれもマーケットがクローズになった時点のものです。

テストするさまざまなポイントハンディキャップのしきい値をデータのプロット後に選択すると、実際はデータを仮説に合わせるべきところで、仮説をデータに合わせるのに都合の良い値を任意で選んでしまうリスクがあります。

実際のプライスは提示されていませんが、仮定は、スプレッドが平均してフィフティフィフティのプロポジション(例えば、マージンを適用後の1.95/1.95や1.91/1.91、アメリカンオッズでは-105/-105や-110/-110)を表すものでなければなりません。その仮定が有効であれば、その後の分析には実際のプライスは必要ありません。 

Sportsbook Reviewsによると、スプレッドの値は、2015年より前は5Dimes、Betonline、Bookmaker、Heritage、Pinnacle、Sportsbook.comによるもので、それ以降はWestgate Superbookの値に5DimesとBookimakerからの補足を加えたものです。どのスプレッドがどの特定のブックメーカーによるものであるかに関する正確な情報は入手できていません。 

15,508試合のうち、15,311試合において、マーケットのクローズ時にハンディキャップ付き(一方のハンディキャップが-0.5以下)のフェイバリットが存在していました。それらの試合のうち254試合で、フェイバリットが(もちろんアンダードッグも)ぴったり得点スプレッドをカバーしました。残りの15,057試合のうち、50.08%に相当する7,541試合でフェイバリットがスプレッドをカバーし、49.92%に当たる7,516試合でアンダードッグが同じようにスプレッドをカバーしました。50-50の期待値との差は、カイ二乗検定のp値にすると84%になります。言い換えると、規則的でないバイアスとの間に統計的に重要な違いは何もないということです。48%には十分足りています。

スプレッドを掘り下げる

この結果では、LevittのNFL分析がほとんど再現されていません。しかし、バイアスを見つけるという希望は、まだ諦めないでいましょう。直感的な自信からの説明では、マネーラインの本命度が高ければ高いほど、スプレッド市場でもフェイバリットを後押しする可能性が高くなり、ブックメーカーがより大きなハンディキャップを操作することにつながると示唆されていることを思い出してください。

下のグラフは、試合でスプレッドをカバーしているフェイバリットの累積パーセンテージをポイントハンディキャップ順に示したもので、ハンディキャップの大きさが最大のものが最初になっています。明らかに、大きなハンディキャップは小さなものに比べてはるかに少ないため、X軸の目盛間隔は一定ではありません。 

in-article-points-spread-in-article-1.jpg

サンプル数の少なさから分散が顕著である最も大きい方のハンディキャップを無視すると、データからは得点スプレッドバイアスのはっきりとした証拠が見て取れます。しかし、チーム評価が同等、つまりハンディキャップがゼロに近付くと、バイアスは消えてしまいました。たとえば、クローズ時のハンディキャップの大きさが12以上の1,303試合では、フェイバリットがハンディキャップをカバーしたのはちょうど47.0%でした。クローズ時のハンディキャップの大きさが10以上の2,600試合では、フェイバリットの48.3%がスプレッドをカバーしました。そして、クローズ時のハンディキャップの大きさが8以上の4,701試合ではスプレッドのカバー率は49.4%でした。

体系的? それともランダム?

ここでの問題は、このバイアスが有意で統計的に意味のあるものなのか、あるいは、サンプルサイズが小さいことから生じるただの幸運な結果なのかということです。ハンディキャップの大きさが12以上の場合で考えてみると、t検定では、偶然フェイバリットの47%がスプレッドをカバーする確率(50%の期待値を想定)はわずか0.3%であることが確認できます。

通常、これは統計的に有意と見なされます(p値が5%または1%より小さい場合、通常、統計的有意性の重要なベンチマークと見なされます)から、何らかの理由でスプレッドに何らかのバイアスが存在する場合、別の一方を支持するバイアスはないはずだという帰無仮説は棄却されます。パート1で説明したように、最も明白な理由は、ブックメーカーがベッターを利用するためにスプレッドを操作しているからということです。

残念ながら3つの注意点があります。まず、10点ハンディキャップのしきい値に関連するp値の1.7%は統計的な有意性がほとんどない一方、8点ハンディキャップのしきい値に対応する値の25.2%は統計的な有意性が全くないということです。

次に、既知のデータ分布に準拠していない可能性があるデータ数(チームがスプレッドをカバーする回数)を処理していることを考えると、このケースでは、t検定の使用が実際には適切ではない可能性があります。代わりに、より頑健ではあるがそれほど強力ではないノンパラメトリックな分布のないカイ二乗検定を使用できます。例えば、12点ハンディキャップのしきい値のカイ二乗p値は3.3%です。

ベッターは、そのチームの勝利を強く確信している(本命としての認識が強い)ほど、そのチームが得点スプレッドをカバーするだろうと信じやすくなります。

最後に、バイアスを探すときに何点のハンディキャップを考慮すべきか、完全に明らかなわけではありません。テストするさまざまなポイントハンディキャップのしきい値をデータのプロット後に選択すると、実際はデータを仮説に合わせるべきところで、仮説をデータに合わせるのに都合の良い値を任意で選んでしまうリスクがあります。そのようなデータマイニングは決して良い考えとは言えません。このように 利益を生むシステムを「発見」 しようとするベッターは、危険をおかしてそうしているのです。

極端な場合、並べられた一連のポイントハンディキャップの値のすべての点数について、p値を計算することができます。ここでは、15,310試合という意味です。これにより多重比較問題が発生します。一連の統計的検定を同時に実行する場合、それぞれで有意義な推論が「発見される」可能性があります。例えば、ある検定が5%レベルの棄却p値(統計的有意性のしきい値)で実行され、偶然性がないとするという帰無仮説が真である場合、それを誤って棄却する可能性はわずか5%です。

ただし、対応する帰無仮説がすべて真である場合に100回の検定が行われ、検定が互いに統計的に独立している場合、少なくとも1つの誤った棄却が起こる確率は99.4%です。その場合、何らかの修正を適用しない限り、私たちは仮説検定をあまり信じることができません。

一般的に使用されている方法の1つは、ボンフェローニ補正です。ボンフェローニ補正を実行するためには、棄却p値を行われている比較の数で単純に割ります。例えば、1回のテストの棄却値が5%だった場合、10回の同時テストでは0.5%に下げます。10個のp値のどれもが厳しくなったしきい値を下回らない場合、見ているすべてのことが偶然に起こったという帰無仮説を棄却することはできません。 

次のグラフは、ハンディキャップの点数でランク付けされた一連の連続累積一致サンプルのt検定とカイ二乗検定のp値の推移を示しています。y軸は対数です。また、Bonferroni補正の棄却p値も示しています。1つのテストの棄却値が5%で、15,310の同時テストが実行されたと仮定しています。

in-article-points-spread-in-article-2.jpg

ノンパラメトリックなカイ二乗検定は、体系的により控えめなp値を示します。おそらくこちらの方が注目に値します。しかし、t検定のp値においてさえ、補正後の棄却値に届く数値は一切ありませんでした。目にしているものはただの偶然に過ぎないとする仮説を除外することはできません。

厳密に言うと、Bonferroni補正は、すべての同時テストが互いに独立していることを前提としています。今は明らかに、ランク付けされた一連のポイントハンディキャップで、フェイバリットの連続する大きなサンプルが50%未満の確率でスプレッドを集合的にカバーしているかどうかを見つけようとしているのですから、これは前提が違います。つまり、補正後の棄却しきい値は控えめすぎる可能性があります。それにもかかわらず、私がこの方法論を説明したのは、実在しない可能性のある統計的な有意性を仮定するという潜在的な落とし穴の存在を強調するためです。 

この分析から何を学んだでしょうか。

定性的に言えば、これらの結果は次のように要約できます。そうです。NBAのベッティングマーケットには、得点スプレッドの本命バイアスが存在するように見えますが、しかし実際に存在するのは、ハンディキャップの値が最大のときに限られます。このバイアスに統計的な有意性があり、バイアスが存在する理由が偶然を超える因果関係を示唆している場合、たとえば、ブックメーカーによるスプレッド操作がある場合などには、バイアスは弱くなる傾向にあります。

ブックメーカーが、NFLにおいてLevittが指摘したような方法でスプレッドを操作しているのだとしたら、そのような操作は範囲が限られています。直感的なバイアスでは、ベッターが最大のハンディキャップにベットしすぎることへの説明はつくかもしれません。しかし、それではブックメーカーは最小限の方法でしかこれを利用できません。スプレッドをさらに大きく変えることでもっと利用しようとすると、ベッターの態度は非線形で反応することになり、ブックメーカーが期待していた追加利益はなくなってしまいます。

この12シーズンの例で、逆張りをするように、フェイバリットが負ける方にベットしていたとします。プライスが1.95(-105)で、ブックメーカーのマージンが2.5%だと仮定した場合、一連のポイントハンディキャップに対する利益の変化がどうなるかを示しているのが、下のグラフです。

in-article-points-spread-in-article3.jpg

そうです。逆張りで、最大のアンダードッグがスプレッドをカバーするのを応援する場合、いくらか潜在的な収益性があります。しかし、その収益性は小さく、またこれは統計的に優位性があって将来にわたって持続するものなのかという疑問も残ります。固定オッズベッティングマーケットにおける本命-大穴バイアスに関して言えば、そのバイアスの存在により生じる潜在的な収益性は、最も強いフェイバリットの負けにベットする場合にかなり限定されています。一方で、ほとんどのマーケットはブックメーカーのマージンによって設定されたリスク許容範囲内にあります。

もっと一般的に言えば、ほぼ間違いなく、すべてのスプレッド値における全フェイバリットと全アンダードッグに違いはありません。つまり、互いにちょうど同じだけスプレッドをカバーし合っているのです。とても強いフェイバリットには、非効率性のポケットが存在するかも知れません。しかし、NBAの平均的なスプレッドプライスには、当該チームがそれらのスプレッドをカバーする真の確率がよく表れているようです。

かつてLevittがNFL市場を研究していたときには一般的なバイアスがもっと存在していたのだとしても、それはもう大半が無くなってしまったように思われます。市場の非効率性が周知のものとなってしまえば、非効率な状態は長くは続かないでしょう。

ベッティングリソース - あなたのベッティングをパワーアップ

オンライン最高クラスの充実度を誇るピナクルのベッティングリソースでは、専門家によるベッティングのアドバイスをご覧いただけます。ベッティング経験の長さを問わず、ベッターの皆様がパワーアップできる知識をお伝えすることが目的です。