2014年にピナクルは、「ビデオの中のチョコボールの数を当てる」というクイズを通じて、集合知の仮説の検証を行いました。テストの終了時、予想が当たったのは608人の回答者のうち、1人しかいなかったにもかかわらず、予想値の平均は正解よりもわずか1.4%高かっただけでした。
スポーツイベントの結果を事前に知ることは不可能である一方、それでも群衆というものは、こうした条件下ですら、それぞれの結果が生じる可能性を正確に評価してみせるのです。
もちろん、スポーツの結果は本質的にそれが起きるか、起きないかの二者択一です。しかし、ベッターの意見はお金の流れを通じて示され、ブックメーカーはその情報を基にオッズという形で、それぞれの結果が生じる確率を判断します。確かに群衆には不確定な事象に直面したとき、反射的に偏った判断を下してしまう傾向があり、全体として賢明とは言えない意見が醸成されることも少なくありません。
しかし、一般的にはベッティング市場が流動的である（すなわち、人気がある）ほど、優れた集合知が得られることが分かっています。スポーツイベントに関して様々な見解を表明する、独立したプレイヤーの数が増えるほど、群衆全体としては賢くなり、ベッティングオッズの精度も上がっていくのです。
ピナクルベッターの集合知
私は以前、ピナクルのサッカーマッチの1X2ベッティングオッズが正確かどうか、ひいてはそれらのマーケットがどれほど賢いのか、予想される結果の発生率（オッズによって決まる）と、実際の結果の割合とを比較することで検証を行いました。この分析の結果、ピナクルのベッティングオッズは平均して、極めて効率的である―― すなわち正確であることが実証されました。
スポーツイベントに関して様々な見解を表明する、独立したプレイヤーの数が増えるほど、群衆全体としては賢くなり、ベッティングオッズの精度も上がっていくのです。
例えば（ピナクルのマージンを除外した上で）2.00倍の公正なオッズが付けられているチームは通常、50%の確率で勝利します。4.00倍のオッズを付けられたチームは25%の確率で勝利し、以降も同様です。こうした数字はピナクルの市場が効率的であるという決定的な証拠とはならない一方、一貫はしています。
もちろん、すべてのブックメーカーが特定のチームに同じオッズを付けることはありません。例えばピナクルでは2017年2月11日の試合で、LiverpoolがTottenhamに勝つというベットに2.22倍のオッズを付けました。このオッズは、他のブックメーカーでは2.15倍から2.33倍の間でばらけました。どのオッズがもっとも正確か知るには、どうすればよいでしょうか？
ピナクルの集合知を他のブックメーカーと比較検証
ピナクルのオッズと他のブックメーカーのオッズの相対的な効率性を検証するひとつの方法は、以下の仮説を立てた上で付随する検証を行うことです。
1) ピナクルの（マージンを除外した）オッズが、実際の結果の発生率を正確に測定できていると仮定する。
2) その上で、他のブックメーカーのオッズとピナクルのオッズの比率から、期待値すなわち期待リターンを割り出す。
3) 実際のリターンを、レンジ内の期待リターンと照らして分析する。
例えばピナクルが予想した、LiverpoolがTottenhamに勝利するベットに対する（マージンを除いた）公正なオッズは約2.25倍。Liverpoolの勝率は約44%と考えられます。続いて上記の予想が正しいとすれば、市場でもっとも高い2.33倍のオッズでは約1.035倍の期待リターンが得られ、すなわち3.5% (2.33/2.25）得をします。
一方、市場でもっとも低い2.15倍のオッズでベットすると、期待リターンは0.956倍となり、すなわち4.4% (2.15/2.25)損をすることになります。これを踏まえて、3.5%得をする (または4.4%損をする）期待リターンを持つすべてのベットが、全体として3.5%多い（または4.4%少ない）利益を生んだのであれば、仮定は正しかったと結論づけられます。すなわち、ピナクルのオッズは平均して効率的であり、正確であり、賢明であると言えるわけです。
それでは、ピナクルのサッカーマッチベッティング市場は、どのくらい賢明なのでしょうか？私は2012/13年シーズンの開幕以降、ヨーロッパ全土で行われたリーグ戦35,570試合のサンプルを分析しました。各試合にはホーム勝利/ドロー/アウェイ勝利のマーケットがあり、発生しうる結果は全部で106,710通りとなります。
その各結果について、マージンを除いた、大手ブックメーカー4社のうちの1社とピナクルのオッズの比率を割り出し、期待される価値すなわちリターンを計算しました。4社すべてでは全部で426,840通りの期待リターンが得られます。次に各期待リターンについて、0.01倍間隔（例えば0.98、0.99、1.00、1.01など）で実際のリターンを計算し、5点移動平均を使ってデータの変動を平滑化しました。データは、下の散布図に 入れ込んでいます。極端に低いまたは高い期待リターンは、当然のことながら有意なデータポイントの数が非常に少ないため除外しています。
期待リターンと実測リターンの相関性は極めて高く、実質的に1対1。すなわち、サンプルマッチの期待リターンが90%の場合には、実際のリターンも約90%になる（つまり、10%損をする）ということです。期待リターンが105%であれば、実際のリターンも約105%（すなわち5%得をする）になります。
マーケットが愚かなのか、操作されているのか
今度はその逆をやってみましょう。今回は、他のブックメーカーの（マージンを除いた）オッズが、実際の結果の発生率を正確に測定できていると仮定します。今回の実測リターン、すなわちピナクルのオッズでのベッティングと、仮定から導かれる期待リターンを比較した場合、どういった結果が得られるでしょうか？ご覧ください。
今回は期待リターンと実測リターンの間にまったく相関性が見られません。公正なオッズが2.00倍である場合、ピナクルが1.8倍や2.1倍のオッズを提示していようと関係なく、約2%の損をします（これはほぼ、ピナクルのサッカーマッチベッティング市場のマージンと一致します）。このことから分かるのは、今回の分析に用いた他の大手ブックメーカー4社のオッズは平均して、ピナクルと比べると、実際の結果の発生率を有意に評価できていないということ。正確な評価を下しているのは、ピナクルのオッズなのです。
ブックメーカーが使用する値付けモデルとは？
この発見については、おそらく2通りの説明が可能です。まず、他のブックメーカーが正しいオッズの付け方を知らないことが考えられます。もっとも、これらのブックメーカーが長い成功を収めていることを考えると、この説明が信憑性に欠けることは明らかでしょう。だとすると、ブックメーカーが自身のビジネスモデルの利益を追求するために、オッズを意図的に、効率性の低いほうへ動かしていると推測されます。
ピナクルの値付けモデルは集合知を活用しており、オッズを引き締めるシャープなプレイヤーを歓迎しています。一方、ヨーロッパやイギリスの他のブックメーカーは、販促的なオファーや、流動性の低いバラエティ豊かなマーケット、そして市場でもっとも高いオッズ（もっとも低いマージンではなく）の定期的な提供を通じて、スクエアなベッター（素人ベッター）を安定して呼び込むことを好みます。最後の部分に関して言えば、いくつかのオッズをざっと比較するだけで、ブックメーカーがピナクルの市場とは大きく異なる、極端なまでに破格値のオッズをプレイヤーに提供している、無数のマッチが見つかるはずです。
私が分析したサンプルでは、全体の4.1%のベットで、そうした高い期待値を得ることができました。もちろん、それだからこそ、こうした別ブランドの多くはピナクルとは対照的に、アカウントの閉鎖を積極的に行うのでしょう。彼らはそうやって、バリューベッティングやアービトラージなどの戦略を通じて、こうした破格値のオッズを利用しようとするプレイヤーの脅威を軽減しているわけです。また、ピナクルが公然とアービトラージベッターを受け入ている一方、他のブックメーカーは彼らを拒否しています。だとすれば、ベッターから見て、アービトラージの期待値が低い方のブックメーカーが通常、ピナクルであるという事実も驚くには値しません。
このことは、ピナクルのベッティング市場の完ぺきな効率性を伝えているのではありません。単純に、ピナクルの市場で非効率性を見つけ、それに付け込むのは難しいということなのです。それでも、それをやってのける鋭敏なベッターたちは、自分たちが常に歓迎されていることを知りながら、使い慣れた戦略を用いて、安全に勝利を重ねています。このことは実際、賢明なベッティングマーケットの構築に役に立ちます。そしてピナクルはそのおかげで、競合他社とは一線を画していられるのです。