今の世代のテニスファンは、3人の史上最高レベルのプレイヤーに恵まれてきました。Roger Federer、Rafael Nadal、Novak Djokovicは10年以上に渡り、男子テニス界で君臨し続けています。ただ、3人の中では誰が最高のプレイヤーなのでしょうか。この記事で、ベッティング市場からの提言に注目してください。
今年の2月にNovak Djokovicが全豪オープンで8度目、グランドスラムでは通算17回目の優勝を果たした後、私は誰が史上最高の男子プレイヤーかという論争の決着に、2020年は大きな役割を果たすと確信しました。
Federerは残りの大会で勝利をもぎ取ることができるでしょうか。それともNadalかDjokovicか、あるいは両者に追いつかれ、最終的に打ち負かされてしまうのでしょうか。テニス界は、史上最高レベルのプレイヤー3人が同じ時代に競い合うという恵まれた状況にあります。しかし結局のところ史上最高、つまり「GOAT(the greatest of all time)」と呼ぶのに最もふさわしいのは誰なのでしょう。Federerでしょうか、Nadalでしょうか。それともDjokovicでしょうか。
それぞれの考え方によって、GOATに値するのは3人のうちあのプレイヤーだ、という思いがあることでしょう。Federerは、グランドスラムでの20回におよぶ優勝回数と、ランキング1位連続在位期間の両方で、しっかりとリードをとっています。Nadalは、83.2%という歴代最高勝率を保持しており、Federerとのグランドスラムの差もわずか1回です。しかし、両者との直接対決においてはDjokovicが優勢です。
仮に、グランドスラムでの優勝回数だけを基にGOAT論争を考えるとしても、全員がキャリアを終えた時点では、Federer、Nadal、Djokovicのうち2人、あるいは全員が同じ記録を持っているという可能性もあります。このような場合、何をもって決着をつけることになるのでしょうか。
そこで、この論争を別の視点で見てみようと考えました。Federer、Nadal、Djokovicの3人が史上最高レベルのプレイヤーであることは間違いありませんが、ベッティング市場ではこの3人がどのように認識されているのか、そしてオッズに対しての戦績はどうなっているのかを見ることで、さらに何か分かることはないでしょうか。彼らのキャリアについてベッティング市場が何を教えてくれるのか、一緒に見ていきましょう。テニスベッティングの史上最高「GOAT」プレイヤーは誰か?
グランドスラムで戦績を評価する
Federerは、2003年のウィンブルドンで初めてメジャー大会を制しました。その後にグランドスラムで優勝したプレイヤーは、Federer、Nadal、Djokovicを除くと7人しかいません。そして、この7人のプレイヤーが過去67大会で獲ったのは、11タイトルのみです。
そこでまず、Federer、Nadal、Djokovicが有利な組み合わせによって助けられていたかどうかを確認しようと思いました。対戦相手のランキングを比較するというのは明らかに雑な方法ではありますが、トーナメントの特定のステージで、あるプレイヤーが幸運続きであったかどうかを暗示している可能性はあります。
ようするに、大会の優勝者はその他のプレイヤー127人のうち7人を打ち負かすだけでよいのですから、誰とどのラウンドで対戦するのかという点がチャンスに大きく影響します。下のチャートは、それぞれの大会のラウンドで、Federer、Nadal、Djokovicが対戦した相手の平均ランキングを示したものです。
Djokovicは全体として、準決勝と決勝ではランキングが高めの相手と対戦してきましたが、準々決勝ではわずかに弱い相手との組み合わせでした。Federerは、グランドスラムでの滑り出しが好調で、決勝は最初から7戦連勝です。この中で、彼はランク48位、86位、54位のプレイヤーを破りました。一方、Djokovicは、決勝戦に出場した26回のうち、トップ10以外のプレイヤーと対戦したのは1回のみです。
オッズが示すもの
次のチャートは、各プレイヤーについてオッズが暗示する平均勝率を表しています。3人のプレイヤーを比較することが目的なので、マージンは除いていません。オッズによると、準決勝へはNadalが一番楽に進んでいますが、FedererはおおむねNadalやDjokovicよりもオッズが低いことがわかります。3人の中では、Djokovicのオッズが最もコンスタントに高くなっています。準決勝と決勝を通して、Federerの平均オッズは1.47、Nadalは1.42、Djokovicは1.56でした。
オッズの低さは、楽な相手との組み合わせであることがわかるかもしれませんが、一方で優れたプレイヤーであることを反映するものでもあります。以前の記事で、テニスのベッティング市場は非常に効率的であり、実際の勝率がよく評価されていることを紹介しました。そしてさらに興味深いのが、オッズが暗示する期待値と比較した場合の戦績です。
ある試合のFedererのオッズが1.25だとします。これは、勝率が1/1.25 = 80%、つまり0.8回勝つことを示しています。彼が試合に勝てば、期待値を0.2上回ったことになります。彼が負ければ、期待値を0.8下回ります。この方法で考えると、Federer、Nadal、Djokovicの各大会での戦績はどうなるでしょうか。
2001年以降のオッズデータしかなかったので、2001年より前のFedererの大会出場6回分が含まれていないことに留意してください。Pinnacleのオッズは、2004年から2020年までのものを使用しました。
準決勝と決勝では、3人の中で一番良い成績を出したのがNadalです。平均してオッズが低めであるにも関わらず、ベッティング市場での期待値よりも3.6試合分多く勝ちました。大会の山場では、Djokovicも+2.8という強い結果を出しています。
面白いことに、Federer(-1.4)は実際、準決勝と決勝では期待値を下回る戦績でした。グランドスラムの全試合を通して見ると、Nadalが期待値+3.4、Federerが期待値+0.5であるのに対し、Djokovicは+10.4です。
それではこの表をもう少し展開して、グランドスラムでの負けに注目しましょう。大会全体(2001年以降)では、Federerは53回、Nadalは39回、Djokovicは43回負けています。以下のチャートは、これらの負けを暗示される確率の五分位値に分けた割合を示すものです。
それぞれの負けのうち、フェイバリットでありながら負けた回数は、Federerが35回(66%)、Nadalが27回(69%)、Djokovicが24回(56%)でした。1999年と2000年にFedererは大会で6回負けていますが、そのオッズはもっと高かったはずだと仮定すると、実際の負け率は66%より低くなるでしょうから、各大会で予想外の負けを喫する割合が最も高いのはNadalだと考えるのが妥当でしょう。
同様に、すべての負け試合の平均オッズを見ると、Nadal(1.56)がFederer(1.58)との僅差で最低値となり、Djokovic(1.79)が最高値を記録しました。この結果から、ベッティング市場の期待値に関して多少の差があることが示唆されます。大会におけるオッズが最も現状と沿わないのがNadal、最も現状に沿っているのがDjokovicということです。
最も大番狂わせで勝つのは誰か?
アンダードッグとして勝つ場合はどうでしょう。Federer、Nadal、Djokovicが大会で挑戦者側になることはそうそうありませんが、不利なオッズとなっている場合の戦績がどうなっているかを見てみたいと思います。

アンダードッグとされている場合に予想以上の戦績を収めているプレイヤーは、3人の中でDjokovicだけです。22試合中9試合で勝利しており、期待値の8.1をわずかに上回っています。Federerは明らかに印象的なところが少なく、勝利は25試合中7試合のみで、期待値より2.1低い数値です。
以下の表は、3人が大会でアンダードッグだった場合の勝利一覧です。Djokovicには、最大の番狂わせ(4.50の対Gonzalez戦、2006年全仏オープン)がありましたが、面白いことに、Nadalが大会で挑戦者として4回挑んだ中で、Djokovicを打ち負かしたことは1度もありません。また、2012年以降、アンダードッグとして勝ったこともありません。
グランドスラムの覇者を詳細に調べる
テニスのトーナメントはノックアウト方式であるため、ここから結果として「組み合わせの幸運」という要素が大きく出るという特色が生まれます。グランドスラムでは、他のプレイヤー127人のうち、打ち負かさなければならないのは7人だけです。優勝するには他の参加者全員に勝たなければならないスポーツ、たとえばゴルフ、自転車、競走といった他の個人競技と比べると、運の影響がどれほど大きいかは明らかです。
NadalとDjokovicのファンはたびたび、Federerとの対戦記録を引き合いに出して、FedererをGOATと考えるべきではないと指摘します。最大のライバル2人に対する敗戦記録を持つFedererを、本当にGOATと呼ぶことはできるでしょうか。
今の世代でトップレベルのテニスプレイヤーも、32シード形式への移行から恩恵を受けており、早くても第3ラウンドまではランキング32位に入るトッププレイヤーと当たらないよう守られています。
Federer、Nadal、Djokovicは、簡単にタイトルを獲ったのでしょうか? 以下のチャートは、個々の試合の確率を掛け合わせることによって、それぞれがトーナメントで優勝する確率を示したものです。
たとえば、Federerが最も簡単に制した大会は2009年のウィンブルドンでしたが、7試合中に1.11を上回るオッズが付いたものはありませんでした。彼のオッズは、1.002、1.005、1.01、1.04、1.07、1.06、および1.11で、トーナメントを制する確率は75%となりました。対照的に、2017年の全豪オープン優勝までは最も大変な戦いでした。ここでは決勝でオッズ2.25の挑戦者としてNadalを破り、優勝確率8.9%からタイトルを獲得しました。
トーナメントを制する確率の中央値は、Federer(52%)とNadal(49%)の方がDjokovic(39%)よりはるかに高く、Djokovicが優勝するには、相対的により多くの努力が必要ということになります。
グランドスラム記録争い
Djokovicは、中止が決定される前は2020年ウィンブルドンのフェイバリットであり、さらに差を縮めるものとされていました。ウィンブルドンは、失った収益の一部をパンデミックに備えた保険で取り戻すことができますが、プレイヤーにとっては、2020年の大会で優勝する機会が歴史から失われてしまいます。
現段階では、Nadalは依然として、9月に延期されている2020年全仏オープンのフェイバリットです。Nadalが13回目の全仏オープン優勝を果たすと、Federerのグランドスラム大会優勝20回に並ぶことになります。Nadal(33歳)とDjokovic(32歳)は(ともに年齢は執筆時点)、Federer(38歳)よりもかなり若く、彼らが35歳以降にFedererの大会優勝3回に並ぶことができるなら、両者ともにFedererの大会での活躍を超える可能性があります。
期待値に対する戦績はどうでしょうか?
以下のチャートでは、2004年初めからのPinnacleのクロージングオッズを使って、3人のプロとしての全試合にわたる勝利を、期待値との比較で追跡しています。Federerは、キャリア初期(2004年から2008年)および最近(2015年から2020年)は期待を上回る戦績を収めているものの、その間の部分はフラットです。
Nadalが期待以上の成績を残した試合の大部分は2004年から2009年のものであり、以降は一直線です。Djokovicの軌跡では、2006年から2016年までの10年間で卓越した戦績が続いた後、フラットな期間がありますが、これは、FedererとNadalの復活に一致しました。
全体的に見ると、期待値との比較では、3人の中でDjokovicが最も良い結果を出しています。Djokovicは期待よりも36回多く勝利していますが、Federerは26回、Nadalは18回です。大会での戦績を除外すると、Djokovic(+25)とFederer(+25)は、Nadal(+15)よりはるかに優れているものの、両者とも完全に同じ記録です。
直接対決を制するのは誰か?
NadalとDjokovicのファンはたびたび、Federerとの対戦記録を引き合いに出して、FedererをGOATと考えるべきではないと指摘します。最大のライバル2人に対する敗戦記録を持つFedererを、本当にGOATと呼ぶことはできるでしょうか。Federerは、Djokovicに対しては23勝27敗で、Nadalに対しては16勝24敗です。
少し深く掘り下げてみましょう。FedererとNadalのすべての直接対決を調べると、40%がクレーコートで行われており、クレーでは間違いなくNadalが優勢です(Nadalが14勝2敗でリード)。ハードコートとグラスコートでは結果が異なり、Federerがそれぞれ12勝9敗と3勝1敗で有利に立っています。この2人の対戦はクレーコートで行われる割合が高いため、直接対決の勝率がNadalに寄っているのです。グラスコートの試合がもっと多ければ、最悪でも、Federerは差を縮めていたはずだと思われます。
面白いことに、Federer(-1.4)は実際、準決勝と決勝では期待値を下回る戦績でした。グランドスラムの全試合を通して見ると、Nadalが期待値+3.4、Federerが期待値+0.5であるのに対し、Djokovicは+10.4です。
その一方、Djokovicは、Federerとの直接対戦において、クレーコートでの8戦は五分としているものの、ハードコートでも(20勝18敗)グラスコートでも(3勝1敗)勝っています。またDjokovicは、Nadelとのクレーコートでの対戦成績についてもFedererより勝っており(7勝16敗)、ハードコートではさらに抜きん出た記録(20勝7敗)を持っています。
DjokovicとNadalのグラスコートでの4戦は五分ですが、直接対決は29勝26敗でDjokovicが優位です。つまり、DjokovicはFedererとの対戦でもNadalとの対戦でもリードしています。ただし、これらの記録がオッズに基づいて予測されるものであるかどうかを分析すると、さらに詳細がわかります。
Federer対Nadal
Nadalは、Federerとの40試合中、フェイバリットで試合を開始した回数は23回(クレーコートでの16試合中14試合を含む)でした。Pinnacleのクロージングオッズから計算すると、Nadalの勝利は20.8、Federerの勝利は19.2と想定されていました。つまり、Nadalの24勝は期待値を3.2勝上回るということです。
予想される勝利数と合計勝利数を下の図に示すと、Federerが一貫して過大評価されてきたことがわかります。Federerは、2015年のBasel決勝で勝利する前は、予想を下回る6勝でした。2019年の全仏オープンで終わった6連勝だけが、Federerの期待値との差を幾分か埋めることとなりましたが、勝利数においても、期待値に対する勝率においても、Nadalより明らかに劣ったままです。
Nadal対Djokovic
55試合中、33回はNadalがフェイバリット、22回はDjokovicがフェイバリットで始まりました。以下のチャートからは、Pinnacleのクロージングオッズが示すよりはるかに、Nadalの戦績が悪いことがわかります。期待値31.2勝に対して26試合しか勝っていません。
一方、Djokovicは29勝で、期待値を5.2勝上回っています(期待値23.8勝との比較)。この組み合わせの対戦は、Djokovicが7連勝を続けた2011年の期待値から離れ始め、以来、Djokovicの優勢で差が広がり続けています。2011年のインディアンウェルズ大会決勝以降、DjokovicはNadalと対戦した32試合中、22勝してきました。
Djokovic対Federer
DjokovicとFedererのライバル関係には、2つの異なる時期があります。この2人の、2011年より前の19試合では、Federerがフェイバリットとして始まった試合が18回で、13勝しています。その後の31試合では、Federerがフェイバリットで始まったものが4回しかなく、勝利は10回でした。
全体としては、オッズはわずかにDjokovicに期待したものとなっており、Djokovicの期待勝利数が25.1であるのに対し、Federerは24.9です。この組み合わせの対戦結果は比較的期待値に近いもので、どちらのプレイヤーも期待値との差が3試合もありません。2020年の全豪オープン準決勝でDjokovicが勝ったことで、Djokovicの27勝23敗という記録は、この組み合わせでの期待値を1.9勝上回ることになりました。
テニスの史上最高「GOAT」プレイヤーは誰か?
個人的には、Federerのプレーを見るのが好きですし、Nadalの精神力の強さに感心するところではありますが、Djokovicは両者を超えるほど好調であるように思われます。今年はウィンブルドンが中止となり、次の大会が開かれるまでに39歳を迎えてしまうFedererが、別のメジャー大会で勝利する姿を見るのは難しいでしょう。
Nadalは今年の全仏オープンでFedererの大会20勝に並ぶものと考えられますが、Djokovicも全仏オープンで2度目のタイトルを意欲的に狙ってくるでしょうし、直近の対戦である2015年のトーナメントでNadalを破ったという好ましい記憶も残っているでしょう。
負傷に関わらず、Djokovicは当面の間、クレーコート以外の3大会でフェイバリットになるはずですし、ここ数年の調子は十分に大会記録を残せるものです。
ベッティングのGOATは、もう少しはっきりしています。ほぼすべての測定方法で、Djokovicが優位に立っています。大会での組み合わせはFedererとNadalより厳しいものでしたが、それでもフェイバリットとアンダードッグの両方で期待を大きく超える結果を出しています。
彼の勝利は最も現状に沿うものであり、主要な対戦においても、さらに広くキャリア全体に渡る場合でも、期待を上回る成績を出してきました。議論の余地なく、Djokovicこそ、テニスベッティングのGOATです。Djokovicが大会でライバルたちに勝つのかどうか、テニスファンは目が離せません。