ATPとWTAの両団体が2018年に主催する126大会のうち、芝(グラス)コートで争われるのは14大会しかありません。ハードコートの75大会、クレーコートの37大会と比べると、芝コートでの試合の少なさは歴然です。
こうした短い芝シーズンの試合に対し、市場は巧みに値付けできているのでしょうか?この記事では、芝コートのテニスマッチの値付けは十分理解されているか、そしてこのサーフェスでは格上と格下、どちらの選手がベッターにより良いベッティングチャンスをもたらすかを探っていきます。
芝コートでの格下選手の戦いぶりは?
2010年以降、芝コートの試合では29%の確率で格下選手が勝利しています。対して、ハードとクレーの両コートでの勝率は30%です。面白いことに、格下選手が芝で勝った時の平均オッズは3.33倍と、ハードでの3.11倍、クレーでの3.13倍と比べてかなり高くなっていました。このことから、芝の試合では高オッズの格下選手が勝利を収めていたケースが何度かあったと考えられます。実際、10倍以上のオッズで勝利した格下選手は芝コート以外ではわずか1.2%でしたが、芝コートでは1.7%にも上りました。
ピナクルのオッズが示唆する期待値と、10倍以上のオッズ(想定勝率10%以下)がついた選手の芝コートでの勝率を比較してみると、オッズは正しく調整されているように映ります。オッズからはこれらの選手が6.4%の確率で勝利することが見込まれ、その中の5.8%(ATP)と6.3%(WTA)が実際に勝利を挙げています。

ピナクルのオッズはどの価格帯においても、効率的なように映ります。プレイヤーの勝率が期待値を大幅に上回っている、唯一のオッズ範囲は、WTAではオッズが5.00~10.00倍(想定勝率11~20%)の時、ATPではオッズが1.43~1.67倍(想定勝率61~70%)の時です。以下の表は「芝コートの試合ですべてのプレイヤーに一定額を賭ける」という戦略に対するリターンを、各想定勝率レンジ別に示したものです。
想定勝率
|
オッズ範囲
|
ATPベット数
|
平均オッズ
|
ATPリターン
|
WTAベット数
|
平均オッズ
|
WTAリターン
|
0-10%
|
> 10.00
|
223
|
16.30
|
27.40%
|
95
|
14.20
|
-11.30%
|
11-20%
|
5.00 - 10.00
|
448
|
6.65
|
-9.60%
|
271
|
6.53
|
5.10%
|
21-30%
|
3.33 - 5.00
|
534
|
4.00
|
2.80%
|
460
|
3.93
|
-4.10%
|
31-40%
|
2.50 - 3.33
|
572
|
2.86
|
-11.10%
|
606
|
2.86
|
-4.40%
|
41-50%
|
2.00 - 2.50
|
575
|
2.23
|
-4.80%
|
588
|
2.24
|
-6.20%
|
51-60%
|
1.67 - 2.00
|
562
|
1.81
|
-0.30%
|
561
|
1.80
|
-2.30%
|
61-70%
|
1.43 - 1.67
|
592
|
1.53
|
1.60%
|
620
|
1.54
|
-0.60%
|
71-80%
|
1.25 - 1.43
|
505
|
1.34
|
-2.90%
|
491
|
1.34
|
-1.40%
|
81-90%
|
1.11 - 1.25
|
483
|
1.18
|
-2.90%
|
322
|
1.18
|
-2.10%
|
91-100%
|
< 1.11
|
342
|
1.06
|
-1.40%
|
150
|
1.07
|
-2.60%
|
リターンが最も高かった(27.4%)のは、ATPの芝マッチで、オッズが10倍以上のすべてのプレイヤーに賭けた場合でした。実際の勝率はオッズから想定される平均勝率よりも低かったにもかかわらず、この結果になっています。一体、どういうことでしょうか?
128人の選手で争われる、唯一の芝コートの大会であるWimbledonでは、大会序盤に偏った対戦が組まれることが多く、それだけ大波乱も起きやすいと言えます。
芝コートの戦いで、10倍以上のオッズがついた223人のATPプレイヤーのうち、実際に勝ったのは13人だけ(5.8%)でした。それでも利益が出たのは、彼らのオッズが敗戦したプレイヤーと比べて、より高めに調整されていたからです。30倍以上のオッズがついたプレイヤーは、勝利した中では31%いましたが、敗北した中では15%にすぎませんでした。
2010年以降、芝での試合で、格下選手が30倍以上のオッズの時に勝利したケースは4回ありました。いずれもATPツアーの、Wimbledonでの試合で起きています。WTAツアーで最高のオッズがついた番狂わせは、2013年大会の2回戦でLarcher De Brito(24.52倍)がSharapovaを破った一戦でした。
大会
|
ピナクルのオッズ
|
勝者
|
敗者
|
スコア
|
Wimbledon
|
46.00
|
Stakhovsky
|
Roger Federer
|
6-7, 7-6, 7-5, 7-6
|
Wimbledon
|
41.00
|
Lukas Rosol
|
Rafael Nadal
|
6-7, 6-4, 6-4, 2-6, 6-4
|
Wimbledon
|
34.00
|
Steve Darcis
|
Rafael Nadal
|
7-6, 7-6, 6-4
|
Wimbledon
|
31.30
|
Sam Querrey
|
Novak Djokovic
|
7-6, 6-1, 3-6, 7-6
|
Wimbledon
|
24.52
|
Michelle Larcher De Brito
|
Maria Sharapova
|
6-3, 6-4
|
Wimbledon
|
20.00
|
Ernests Gulbis
|
Tomas Berdych
|
7-6, 7-6, 7-6
|
芝コートでの波乱がいずれもWimbledonで起きているのは、まったく意外ではありません。128人の選手で争われる、唯一の芝コートの大会であるWimbledonでは、大会序盤に偏った対戦が組まれることが多く、それだけ大波乱も起きやすいと言えます。
Wimbledonはこうした番狂わせで知られる大会のようです。NadalはRosol(41.00倍)に負け、翌年にはDarcis(34.00倍)に屈しました。2013年にはFedererがStakhovsky(46.00倍)に、Serena WilliamsがLisicki(10.25倍)に負けています。今も記憶に新しい、テニス史に残る大波乱のいくつかは、すべてWimbledonの会場であるオールイングランド・クラブで起きているのです。
また、思わぬ伏兵が何度か優勝している大会でもあります。2001年にワイルドカード(主催者推薦)で優勝したIvanisevicや、2004年に17歳で優勝したSharapovaの活躍は、今も脳裏にはっきりと焼きついています。
Wimbledonでは大波乱が起きやすい?
この10年間のWimbledonのマッチでは、ATPでは21.7%、WTAでは26.9%の格下プレイヤーが勝利を収めています。こうした数字は、他のグランドスラムと大差ありません。しかし、10倍以上のオッズのついたプレイヤーが勝利する確率は4.6%と、ATPの試合で大波乱が起きる割合では上回っています。
大会名
|
番狂わせ発生率(ATP)
|
番狂わせ時の平均オッズ(ATP)
|
5~10倍の番狂わせ
|
10倍以上の番狂わせ
|
Wimbledon
|
21.70%
|
3.02
|
11.10%
|
4.60%
|
Australian Open
|
21.90%
|
2.93
|
11.40%
|
3.20%
|
French Open
|
19.10%
|
2.99
|
9.10%
|
4.30%
|
US Open
|
24.60%
|
3.04
|
16.20%
|
3.30%
|
大会名
|
番狂わせ率(WTA)
|
番狂わせ時の平均オッズ(WTA)
|
5~10倍の番狂わせ
|
10倍以上の番狂わせ
|
Wimbledon
|
26.90%
|
2.89
|
13.40%
|
6.60%
|
Australian Open
|
26.90%
|
2.81
|
15.20%
|
2.30%
|
French Open
|
26.40%
|
2.86
|
10.20%
|
8.10%
|
US Open
|
26.70%
|
2.96
|
17.50%
|
6.20%
|
WTAのグランドスラムの試合ではATPの試合と比べて、より多くの番狂わせがいつも起きています。ひとつの要因として、女子の試合は5セットではなく、3セットマッチで争われることが挙げられます。短い試合ほど、結果に影響を与える変数が増えるからです。ATPの5セットマッチでは、格下選手が格上選手を倒すのに必要なプレーレベルを維持することが難しくなっています。
Wimbledonでの番狂わせに賭ける
Wimbledonですべての大穴選手に賭けるという戦略は正しいのでしょうか?以下の表は、2010年以降のWimbledonですべての格下選手に一定額を賭けた場合のリターンを、3つのオッズ範囲(2.00~5.00倍、5.00~10.00倍、10.00倍以上)別に示したものです。
想定勝率
|
オッズ範囲
|
ATPベット数
|
ATPリターン
|
WTAベット数
|
WTAリターン
|
< 10%
|
10.00+
|
175
|
19.90%
|
91
|
-7.50%
|
11 - 20%
|
5.00 - 10.00
|
244
|
27.40%
|
186
|
-11.30%
|
21 - 50%
|
2.00 - 5.00
|
564
|
10.10%
|
720
|
-7.40%
|
オッズ10倍以上のATPプレイヤーすべてに賭けていた場合、175回のベットから、20%弱のリターンを生んでいました。他の3つのグランドスラムで同じ戦略を採った場合のリターンは平均-48%なので、大損を被っていたことでしょう。WTAの試合でオッズ10倍以上の格下選手に賭ける戦略も同じく、失敗でしたが、French Openだけは例外で、111回のベットから39%のリターンが得られていたと考えられます。
Wimbledonの試合の勝率と、プレイヤーのオッズが示唆する勝率との比較から、オッズに潜む他の偏りも明らかになります。下の表を見ると、ピナクルのWimbledonの値付けはどのオッズ範囲においても、総じて正確であることが分かります。

ただし、ATPの試合で、プレイヤーの想定勝率が40%~60%(オッズにして1.67~2.50倍)である時の値付けには、例外的に偏りが見られました。わずかに格下の選手(想定勝率41~50%)は本来の実力に比べて勝ちが少なく、わずかに格上のプレイヤー(想定勝率51~60%)はオッズが示唆する以上に勝利を挙げています。
実力が拮抗したATPプレイヤーのマッチでは、市場はどちらが格上かは正しく見極めていても、 値付けの面では甘かった部分がありそうです。2010年以降のWimbledonの試合で、1.67~1.95倍(想定勝率51%~60%)のオッズがついている格上選手すべてに賭けていた場合、6.0%の利益が得られていたことでしょう。
2018年のWimbledonに賭ける
今回の記事で、テニスの年間スケジュールのごく一部しか占めていないにもかかわらず、芝コートでの試合への値付けは、全体的には十分妥当であることが分かりました。その一方、2つのケースでオッズの偏りが見られました。2010年以降のATPツアーのWimbledonの試合で、10倍以上のオッズを持つ格下選手と、わずかに格上の選手に賭けることは、採算性に優れる戦略でした。こうした傾向が今後も続くのかは分かりませんが、低マージンで知られるピナクルなら、Wimbledon大会を通じて、こうした選手のオッズに大きな価値が生まれやすいことは確かでしょう。