Leicester CityのPremiership制覇でサッカー界に激震が走ってからというもの、評論家、ブロガー、モデラーたちによって数多くの記事が書かれています。Leicesterはいかにして、すべてのオッズを覆して頂点にたどり着くことができたのか、なぜこのようなことが起きたのか、誰もが予想していた確率よりも常に高確率でこのようなことが起こる理由は何なのか、それに対する合理的な説明を後から加えようとしているのです。
こうした面で、Leicester CityのPremiershipタイトル獲得は、哲学者であり統計学者でもあるNassim Nicholas Talebが「ブラック・スワン」と呼ぶ現象の一例と言えます。事前予測が難しい驚異的な出来事であっても実際にそれが起きれば、以前から入手可能だった関連データを正しく解釈できていなかったという後知恵で説明されてしまいます。結果を基に原因を究明しようとするため、理由は覆されます。
Leicesterの優勝予測は可能だったか?
2015/16シーズンのPremier League開幕時点でLeicesterの優勝オッズはどうだったのでしょうか。ブックメーカー各社は過小評価していたのでしょうか? もちろんこの出来事がブラック・スワンである以上、これらの質問への答えをさかのぼって導き出そうとすれば後知恵バイアスがかかる危険性があります。ともあれ、試しにやってみましょう。
可能なやり方の一つは、マッチベッティングオッズマーケットを指標として、Leicester Cityにどれくらいのパフォーマンスを期待できたかを考えることです。Pinnacleの2014/15シーズンPremiershipマッチベッティングオッズからマージンを差し引けば、モンテカルロシミュレーションを行って全20チームの予想合計点、シーズン終了時の予想順位が割り出せます。
このモデルは遡及的ではありますが、本質的にはベイズ統計学であり、ベッティングオッズで定義したチームの相対的な実力に対するマーケットの見方がシーズンが進むにつれてどう変化したかを反映します。ベッターは行動的バイアス、情報カスケード、集団的思考の影響を受けるため、ベッティングマーケットは必ずしも正確ではないという意見もあります。
Leicester Cityが2014/15シーズンの王者になる可能性に対するモンテカルロシミュレーションの結果は、100,000の1という確率でした。
しかし、こういったマーケットの非能率性は小さいのが常で、大多数のパンターが運に頼らず利益を得るうえで大きな影響はないことがわかっています。さらに、ベッティングマーケットが本当に何十万というモデルを反映したものであることを考えると、少数のいわゆる専門家が行う数学的分析よりも信頼できるのではないでしょうか? 含まれる意見が多様であるほど、それを総合してより賢明な判断を下すことができます。
下記の表は、モンテカルロシミュレーションを100,000回行った結果を示しています。Leicester Cityが2014/15シーズンの王座に就くという結果は、そのうち1回しか示されていません。
チーム |
予想点 |
タイトル数 |
優勝の可能性 |
間接的に計算された公平なオッズ |
Chelsea |
81 |
46,682 |
46.682% |
2.14 |
Man City |
79 |
38,290 |
38.290% |
2.61 |
Arsenal |
72 |
9,462 |
9.462% |
10.57 |
Man United |
71 |
7,987 |
7.987% |
12.52 |
Liverpool |
67% |
3,293 |
3.293% |
30.37 |
Southampton |
60 |
338 |
0.338% |
296 |
Tottenham |
59 |
258 |
0.258% |
388 |
Everton |
56 |
91 |
0.091% |
1,099 |
Swansea |
48 |
3 |
0.003% |
33,333 |
Stoke |
46 |
1 |
0.001% |
100,000 |
West Ham |
45 |
1 |
0.001% |
100,000 |
Newcastle |
44 |
0 |
0.000% |
N/A |
West Brom |
43 |
0 |
0.000% |
N/A |
Leicester |
43 |
1 |
0.001% |
100,000 |
Crystal Palace |
41 |
0 |
0.000% |
N/A |
Hull |
40 |
0 |
0.000% |
N/A |
Sunderland |
39 |
0 |
0.000% |
N/A |
Aston Villa |
39 |
0 |
0.000% |
N/A |
Burnley |
36 |
0 |
0.000% |
N/A |
QPR |
35 |
0 |
0.000% |
N/A |
過去は未来への鍵
私たちのモデルが2014/15シーズンに予想したLeicester Cityのパフォーマンスを振り返って、それとだいたい同じ程度のパフォーマンスを2015/16シーズンにも予想したと仮定してみましょう。昨シーズン最後の9試合で7勝して残留を決めたLeicesterですが、2015年8月の時点でそれ以外に予想さらるパフォーマンスが大きく変わると思われる理由はありませんでした。
異論はあるもののPremiership残留の立役者であるNigel Pearson監督が去り、クラブの年間最優秀選手だったEsteban Cambiassoも退団しました。新たに就任したClaudio Ranieri監督はリーグ優勝の経験がなく、少し前はギリシャ代表の監督を努めていましたが、フェロー諸島への敗戦を理由に解任されていました。
ほとんどの専門家や評論家の予測は、降格、もしくはギリギリの残留でした。スーパーコンピューターでさえ、10月の時点でLeicesterの成績をわずか45点、13位と予測していましたが、実際はその時点ですでに5位につけていたのです。
2015年8月時点の100,000/1という確率は、Leicester Cityの2015/16Premiership優勝に対する公正なオッズを反映したものだったのです。実際には、ブックメーカー各社は本命-大穴バイアスを念頭に置き、オッズを5000/1にまで縮小しました。
2016/17シーズンのLeicesterのパフォーマンス査定
今シーズンのマッチオッズを基本にモンテカルロシミュレーションを100,000回行った結果、2016/2017シーズンのLeicesterの予想獲得点は53ポイント、予想順位は9位となります。
では、Leicester Cityの2016/17シーズンPremiership連覇にはどれくらいのオッズが妥当でしょうか? 今シーズンのマッチオッズを使ってモンテカルロシミュレーションをさらに100,000回行った結果、Leicesterの予想獲得点は53ポイント、予想順位は9位となります。2016/17シーズンのチームに対するマーケットの見方が今シーズンとほぼ変わらないと仮定すると、優勝の公正なオッズは625/1程度となり、これは現在発表されている(25/1〜40/1)よりもかなり大きなオッズです。
2015/16シーズン全体で判断するのは適切でないという意見もあります。Leicesterは明らかに、シーズン全体を通して力をつけていきました。ベッティングマーケットはチームの実力の変化に対応するのに時間がかかる(と言われる)ので、Leicesterがリーグ首位に立ったシーズン後半のマーケットの見解を考慮した方が良いのではないでしょうか? 仮にマーケットがシーズン前半のLeicesterに対しても後半と同様の見方をしていたと想定してもう一度シミュレーションを行っても、Leicesterが首位に立つという結果は111回に1回しか出ません。8位で57点という予測で、元のシミュレーションから4点しか増えていないのです。
実力か、それとも運か? – 最終判決
最後に、Leicester Cityの2015/16シーズンの予想合計点は、2014/15シーズンの予想合計点(43)より10点、実際の点(41)より12点多いことにも注目する価値があるでしょう。真にチームの実力が上がったことを反映し、ベッティングマーケットがささやかながらも見方を変化させたのです。
さらにLeicester Cityは27点を積み重ねていますが、これは純粋な運によるものだということが暗示されています。通常、チームの予想点モデルにおける標準偏差は7ですから、Premiershipタイトル獲得はまさにブラック・スワンを体現しています。
昨シーズンの予想合計点と実際の合計点の差は、最も大きいものでも9(Everton)でした。このモデリングに有効性があるとすれば、今後はLeicester Cityのパフォーマンスが平均値に戻るかもしれませんLeicester は以前より強くなったかもしれませんが、今シーズンの出来事はほとんどが幸運による結果だと言っても差し支えないでしょう。