私が以前書いた多くの Pinnacle の記事や、「Squares and Sharps, Suckers and Sharks: The Science, Psychology and Philosophy of Gambling」で使用されている主な理論の多くでは、スポーツベットで勝つことはほぼ不可能とされています。
一般的に、少なくとも Premier League のマッチオッズのような流動性の高い (多くのベットがある) 市場では、価格にベットする結果の「本当の」確率が反映されています。言い換えれば、これらのベッティングオッズは効率的で、2 つのサッカーチームに関する全ての一般公開情報が反映されています。ブックメーカーが自らの取り分を確保した後、両サイドのベッターは利益の可能性を見出すことができません。
勿論、ベットごとに見れば間違うこともありますが、多くの試合数を通して見れば、サッカーチームのニュースはランダムに市場に入るので、ベット結果は運によるものとなります。長期的には幸運と不運が平等に訪れ、通常ブックメーカーの利益、そして多くの顧客にとっては損失という結果になります。
効率的市場仮説の問題とは?
ここ数十年間、効率的市場仮設はあまり支持されなくなってきています。最近では多くの人々が、系統的な (ランダムではない) エラーや、ベッティングを含む市場を完全に道理的ではない結果へと導く先入観のため、人間の行動は効率的な価格へとつながらないと主張しています。
よく言われている理由の 1 つが、人間は大きな確率と小さな確率の重要度を適切に判断できないという点です。特に、起こり得るまたは起こり得ないイベントの確率を系統的に過剰・過少評価するケースがよく見られ、それにより大穴や本命に賭けすぎたり十分に賭けなかったりします。この可能性・確実性効果から生まれる先入観が、本命–大穴バイアスです。この先入観は、多くのスポーツベット市場で何十年にもわたり見られています。
ホットハンドの誤謬
ベット市場に先入観をもたらす要因は、誤った確率の判断以外にもあります。人々が系統的な先入観を持つ理由のもう 1 つがホットハンドの誤謬で、逆ギャンブラーの誤謬と呼ばれることもあります。
Pinnacle のクロージング価格で比較的「コールド」なチームに賭けても、利益を得ることができます。
このエラーはそもそも、繰り返しのパターンや流れにおいてランダムなイベントが起きる可能性が過少評価されているために起きます。代わりに、そのような流れが長く続く理由を説明しようとする傾向があります。
ホットハンドの誤謬という用語は、Amos Tversky と彼の同僚達により、1985 年の論文、「The Hot Hand in Basketball」で初めて使用されました。この論文には、連勝という感覚は運に関する一般的な誤ったコンセプトから来ていることが記されています。このような誤謬により、平均への回帰 (変数に極端な値が出た後に測定される値が平均値に近づく傾向) が無視されます。
この原理が示しているのは、物事が必ず平均に戻ると (誤った平均の法則) いうことではなく、単にその傾向がある (大数の法則) というだけのことです。幸運の後は、それに比例して不運な結果が続く傾向があります。不運にも同じことが言えます。「熱いものは冷める傾向がある」というコンセプトが、「熱いものはしばらく熱いままだろう」という考えに変わってしまうのです。
ホットハンドの誤謬がサッカーベット市場に与える可能性のある影響
チームが連勝すると、ベッターの目に留まります。これにより、このチームの次の試合でこのチームにより多くのベットが集まり、オッズが連勝しなかった場合よりも低くなります。
勿論チームが連勝した背景には、以前の勝利により高まった士気といった、実際の要因があるかもしれません。しかし、ベッターが運による影響を無視してホットハンドの誤謬に影響されているとしたら、ただの過剰評価になります。運が全てだとすれば、後の結果はより素早く平均に戻ることが見込まれます。
これは連勝中のチームで言えば、ベッターが思っているよりも再び負け始める可能性が高いことを暗示し、ベッティングオッズが実際よりも低く設定されていることを意味します。一方、注目されずベットが集まっていないため高値になっている連敗中のチームは、再び勝ち始める可能性が高く、ポジティブな期待価値が得られる可能性があります。
サッカーチームの「ヒート」の測定
このような仮説をテストするには、チームが「ホット」なのか「コールド」なのかを測定する方法が必要です。その 1 つがベッティングオッズを使う方法です。この測定に可能な限り公平なオッズを用いるため、まずはブックメーカーのベッティングマージンを取り除く必要があります。その方法については、以前の記事で様々な方法を詳細に説明しました (この記事では対数関数方式が使用されています)。
サッカーの試合のベッティング市場には、ホットハンドの誤謬による非効率性があると言えるようです。
「ヒート」は、勝ったチームに 1 - 1/オッズ、負けたチームに (または引き分けの場合両チームに) -1/オッズ のスコアをつけてオッズの高さを考慮する、リスク調整方式で測定することができます。
そしてチームの連続試合のスコアを足して、合計スコアを出します。計算に使用された「公平な」オッズが正確であれば、チームの長期的な市場の期待値がゼロになるはずです。ベットで言えば損得なしの結果を意味します。従って、「ホット」ストリークのチームの短期的なスコアはプラスになり、「コールド」ストリークのチームのスコアはマイナスになります。
Liverpool の 2016/17 シーズンの初めの 6 試合を例に見てみましょう。下の表は、Pinnacle のクロージングオッズとマージンを取り除いた「公平」とされるオッズ、試合結果、各試合に対するスコア、以前の連続試合のスコアを足した合計スコアをまとめたものです。
チーム
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相手チーム
|
日付
|
クロージングオッズ
|
公平なオッズ
|
勝敗
|
スコア
|
合計スコア
|
Liverpool
|
Arsenal
|
14/08/16
|
2.68
|
2.73
|
勝ち
|
0.634
|
0.634
|
Liverpool
|
Burnley
|
20/08/16
|
1.51
|
1.52
|
負け
|
-0.656
|
-0.022
|
Liverpool
|
Tottenham
|
27/08/16
|
2.85
|
2.91
|
引き分け
|
-0.344
|
-0.366
|
Liverpool
|
Leicester
|
10/09/16
|
1.68
|
1.70
|
勝ち
|
0.412
|
0.046
|
Liverpool
|
Chelsea
|
16/09/16
|
3.52
|
3.60
|
勝ち
|
0.722
|
0.768
|
Liverpool
|
Hull
|
24/09/16
|
1.25
|
1.26
|
勝ち
|
0.206
|
0.975
|
6 試合後、Liverpool は市場の予想よりも「ホット」であるという結果が出ました。7 試合目は Swansea とのアウェー試合で、Swansea は初めの 6 試合のスコアが -0.468 と比較的「コールド」なチームでした。
Swansea のレーティングを Liverpool から引くと、+1.442 の試合レーティングになり、Liverpool が Swansea に比べどの程度「ホット」かがわかります。逆に、Swansea のヒートを Liverpool と比較し、この試合のレーティングを -1.442 とすることもできます。この方法により、全ての試合に数値的に逆の 2 つのレーティングを付けることができます。
ホットハンドの誤謬の仮説が正しければ、比較的「コールド」なチーム (マイナスのレーティング) に賭けたほうが、比較的「ホット」なチーム (プラスのレーティング) に賭けるよりも有益になる (または少なくとも損失が少なくなる) はずです。すなわち、この例で言えば Liverpool に比べ 1.442 ポイント「コールド」な Swansea に賭けることになります。もし Swansea に賭けていたとしたら、Liverpool が 2-1 で勝ったため、賭けに負けることになっていました。しかし 1 つの例では統計的な情報にはなりません。では大きなデータセットでこの仮説が実証されるか見てみましょう。
ホットハンドの仮説のテスト
ホットハンドの仮説をテストするために、イギリスの Premier League、Championship、League 1 と League 2、スコットランドの Premiership、ドイツの Bundesliga、スペインの La Liga、イタリアの Serie A、フランスの Ligue 1 の 9 つの主要ヨーロッパディビジョン (恐らく最も流動性の高いサッカーベッティング市場) の過去のシーズンのサッカー試合のベッティングオッズデータ (2012/13 から 2016/17)、合計 18,550 試合、37,100 のレーティングを分析しました。
これは連勝中のチームで言えば、ベッターが思っているよりも再び負け始める可能性が高いことを暗示し、ベッティングオッズが実際よりも低く設定されていることを意味します。
このメソドをさらに改良するため、各チームがプレイした最も最近の 6 試合だけを、チームの累積合計スコアと相手チームとのレーティングの比較に入れました。この選択は完全に独断的なものです。
より多くの試合を含めたり含める試合数を減らしたりすることもできましたが、最も最近の 6 試合は、最近の結果のみを分析する他の試合レーティングシステムでもよく使用されている試合数です。従って、各シーズンの初めの 6 試合にはレーティングがなく、合計 15,820 試合、31,640 のレーティングとなりました。
算出された「公平な」オッズで 31,640 のホーム及びアウェーチームの全てにリスク調整ベット (1/オッズ) でベットした場合、リターンの合計が 100.35% となり、予想していた損得なしという結果を若干上回るものとなりました。しかし、これらのチームをマイナス (「コールド」) とプラス (「ホット」) のレーティングに分けると、リターンがそれぞれ 101.84% と 98.99% という結果になりました。
これはあまり大きな差には思われないかもしれませんが、統計的には重要な差です (p-値 = 0.02、2-サンプル、1-テール t-テスト)。下の表にまとめられた、5 シーズンにかけての比較的「コールド」なチームと「ホット」なチームに賭けた場合の結果からは、さらに興味深い事実がわかります。

31,640 の試合レーティングの範囲は ±5.89 です。これらのチームを「ヒート」のレベルで、広い目で見て数値の似たチームからなる 12 のカテゴリーに分けました。これらは下のヒストグラムにまとめられています。「ヒート」のレーティングとリターンには大きな関係があります。相手チームに比べて「コールド」なチームは、公平なベッティング価格からのリターンが上回っています。
また、ベット期間を ±1.50 のレーティングのみが含まれるように調整してみました (10,574、合計サンプルの 33%)。これらの「最もコールド」及び「最もホット」なレーティングは、それぞれ 104.83% と 97.36% という結果になりました。より統計的に重要な差となりました (p-値 = -0.001)。

当然、ブックメーカーが常に顧客に公平な価格でベットさせるわけではなく、オッズを比較することで公平な価格に近い、またはそれよりも有利な価格を見つけることができる中、ほとんどのブックメーカーは顧客が常に有利な価格を利用できないよう制限をかけることもあります。しかし、下の表に示されているように、Pinnacle のクロージング価格で比較的「コールド」なチームに賭けて、利益を得ることができます。そして勿論、Pinnacle はそれを制限しません。
-
|
公平なオッズ
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最高の市場オッズ
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Pinnacle のクロージングオッズ
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「コールド」
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-
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-
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-
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全てのマイナスレーティング
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101.84%
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102.48%
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99.78%
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レーティング < -1.5
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104.83%
|
105.69%
|
102.71%
|
「ホット」
|
-
|
-
|
-
|
全てのプラスレーティング
|
98.99%
|
99.28%
|
97.11%
|
レーティング < -1.5
|
97.36%
|
97.49%
|
95.52%
|
ホットハンドの誤謬を超えて
相互関係は因果関係を暗示するものではありませんが (人は、特にお金を稼ぐ方法を求めている時、ランダムなパターンに意味があると信じる強い傾向があります)、サッカーの試合のベッティング市場にはホットハンドの誤謬による非効率性があるように見られます。
ベッターは最近連勝しているチームに多く賭ける傾向があります。その結果、比較的「コールド」なチームは大衆と逆を行く覚悟のあるベッターに価値をもたらす場合があります。この解釈は当然、利益を生む保証とみなすべきではなく、ベッティング心理とそこから生まれる系統的先入観を理解することで有利にベットできる例に過ぎません。