本命-大穴バイアスは、ベッティング市場で非常に話題になっている現象です。この記事では、さまざまなベッターグループにより示されるベッティングオッズに対する需要の差異が、このバイアスの一因となるのかについて検証します。
需要の価格弾力性とは何でしょうか?
需要の価格弾力性とは、製品の価格変更に関連する消費の変動を測定するものです。需要の弾力性が高いほど、価格変更に伴う製品需要の数量の変動が大きくなります。
例えば、パンのような需要の弾力性の高い製品では、価格の上昇は製品の購買量が急速に下落する原因となります。需要の弾力性の低い製品(よく知られた例は石油)の場合、同じ程度に価格が上昇したとしても、製品の需要量の下落はずっと小幅となります。
これは直感的に理解できますが、このコンセプトはベッティングにおいてどのように作用する可能性があるのでしょうか?
価格差別化:本命、大穴、そして航空会社
本命-大穴バイアスは、ベッティングの世界で非常に話題になっているトピックです。ブックメーカーのマージンの大多数は大穴から得られることがわかっています。
この現象の一部は、価格に関係なく好みの市場で大穴にベットする、娯楽を目的としたよりカジュアルなベッターが引き起こしていると推測されています。一方、それ以外の価格を重視するタイプのベッターは、価値を求めて本命を支持する傾向があります。
この行動は需要の弾力性で説明できます。
類似のビジネスモデルは航空業界において、2種類の顧客グループとして見出すことができます。航空会社は売り上げを最大化するために、さまざまな価格の航空券を主要な顧客層に販売します。
観光目的で旅行をする顧客は価格を重視します。航空料金が高すぎる場合、彼らはフライトの日程を変える、フライトの目的地を変える、航空会社を変える、あるいはフライトを利用しないという選択をします。このタイプの顧客にとって、航空券は需要の弾力性がとても高い製品なのです。
一方、航空会社のそれ以外の主な顧客層はまったく違った行動を取ります。ビジネス目的で旅行をする顧客は、一般的に航空料金の安さよりも時間の節約を重視します。彼らは間際になって(イベントや会議などの)所定の期間に合わせて予約し、料金に関係なく都合の良い日時に出発することを好みます。これは需要の弾力性がとても低い例です。航空料金の変更は、このタイプの顧客の行動を大きく変えるとは考えにくいのです。
これら2つのグループの顧客からの売り上げを最大化するために、航空会社は素晴らしいソリューションを見出しました。航空券を早く予約すれば価格が安くなるようにしたのです。需要の弾力性が最も高い顧客は、日程の調整が可能であるため、早くから予約します。
席が埋まりはじめ、フライト日が近づくと、航空会社は価格を上げます。間際になって予約するビジネス目的の旅行者は、自分に都合の良い日時のフライトを直前に選ぶことに対して、割高な料金を支払います。彼らの需要の弾力性は低く、価格が上昇してもその行動を変えることはないでしょう。
航空会社は基本的にマーケットを2つに分けているということです。マーケットAは観光目的の旅行者、マーケットBはビジネス目的の旅行者です。
本命-大穴バイアスに関して言えば、ベッティング企業が同様の戦略をとることはあり得ます。
この場合、マーケットA(航空業界での観光目的の旅行者に相当)はより価値を重視するベッターです。観光目的の旅行者のように、このタイプのベッターは価格にとても敏感です。彼らはブックメーカーに関係なく、利用可能な最高のオッズにベットし、その提示に価値がないと思えばあっさりとベットをやめる選択をします。
マーケットB(航空業界でのビジネス目的の旅行者に相当)はそれほど価格にこだわらない、娯楽目的のベッターです。彼らはおそらくブックメーカーのウェブサイトの使いやすさといった要素に魅せられて、自分が最も便利にベットができるところで賭け、大抵はよそで提示されているオッズに関係なくベットを選びます。
このタイプの顧客にとっては、ブックメーカーはどこも完全に横一線の存在です。航空会社が観光目的の旅行者にとって完全に代わりの効く業者であることよりも、さらに強力な意味を持っています(航空業界では間違いなく会社によってサービスがかなり違います)。
ブックメーカーが売り上げを最大化したいなら、その課題は航空会社のそれとよく似ています。ブックメーカーはできるかぎり、あるイベントに対して両方のマーケット区分にベットして欲しいのです。マーケットBがマーケットAの航空券に資金を補填しているのと同様に、娯楽目的のベッターは、より価格に敏感な顧客のためにより低いマージンに資金を提供します。
本命-大穴バイアスがマーケットに存在するとき、その存在はブックメーカーが提供するオッズによるものである可能性があります。航空会社が航空券の売り上げを最大化させる場合と同様です。
ブックメーカーが実際にそのように価格付けを行うと、娯楽目的のベッターは大抵、価格に関係なく大穴に流れます。一方、本命に提示されるマージンはより低くなり、価格を重視するベッターを誘惑するようになります。
無制限の供給と情報の流れ:ブックメーカーが顧客を限定する理由
航空会社が提供する商品とブックメーカーのそれとが大きく異なる点のひとつが、航空会社が提供する供給量が固定していることです。航空会社は飛行機の座席数と同数の航空券しか売れません。それに反して、ブックメーカーは無制限に供給できるのです。マーケットに需要がある限り、それに見合うと思うだけのベットを受けることができます。
その一方で、ブックメーカーの最も価格に敏感な顧客たちは、ブックメーカーの出費により自分たちが利益を得ると期待できる場合にのみベットします。
航空会社は飛行機の座席を満たすために、価格に敏感な乗客の一部には損失を出しているかもしれません。それでも空席でこうむる損失よりは、少しでも売り上げがある方がいいのです。ブックメーカーにしてみれば、マーケットBの顧客が常に利益が得られる程度に正確に価格を計算し、アービトラージやバリューベッティングを行える場合、ブックメーカーは自身にまったく利益をもたらさないような顧客から損失を受けます。
ベッティングマーケットはそれでも、非常に博識で価格に敏感な顧客が参加するかどうかにかかわらず、価格にそれほど敏感でない顧客の参入により機能します。対照的に、航空機では損を承知の座席でさえも、そのフライトにかかるコストに対して貢献しています。空席という、最悪の状況に比べれば明らかにましです。
これがブックメーカーが通常、需要の価格弾力性が高く頭の切れる顧客を制限または禁止する理由です。彼らは純損失で、またブックメーカーはマーケットAとBの顧客を差別化できるので、ブックメーカーは自分たちの利益を脅かすマーケットBの顧客に制限をかけるという、十分にシンプルな対応策を取ります。ブックメーカーの視点で言えば、彼らは何ら有益性をもたらしません。
しかしPinnacleはこういったベッターを禁止したり制限したりしません。Pinnacleにとっては、価格に非常に敏感な顧客のベットがもたらす情報、それ自体に支払う価値があるのです。それを基に、より正確なライン設定ができます。
これにより正確なオッズを設定し、マーケットAの顧客からより多くの収益を得ることができます。それはつまり、スキルの低いマーケットBからの売り上げを最大化できるという意味でもあります。Pinnacleは多くの場合、そういったベッターにとって数少ないオプションのひとつであり、完全にその代わりとなる業者はほぼ存在しないため、このマーケット区分から非常に多くの利益を得ることができます。
変動性:優秀なベッターが低いオッズを好むのはなぜでしょうか?
もうひとつ解明すべき疑問点があります。より優秀なマーケットBのベッターはなぜ大穴よりも低いオッズを好むのでしょうか?
考えられる可能性としては、大穴のような起こりそうにもない出来事に賭けることによって変動性が増加し、成功の評価が非常に難しくなるという点です。もっと頻繁に起こる出来事であれば、長期的な利益を実証するに十分な、重要なサンプルサイズを得ることはより簡単です。
同様に、ブックメーカーは大穴に付ける値段を間違えないように慎重になっているのかも知れません。うっかり支払う事態になったときの金額が膨大だからです。そうであれば、より優秀なベッターが本命を好むということにはならないかも知れません。彼らは単に控えめなブックメーカーの価格付けによる、より確実そうなオプションに群がっているだけということになります。
もうひとつ考えられる要因としては、マーケットAのベッターが単に高いオッズのベットのスリルを楽しんでいるというケースもあるかもしれません。こういったベッターは利益のためではなく、何よりも愉しみのためにベットしているので(自分でそれに気付いているかどうかはともかく)、それはある程度納得できることです。
結局、100EURを1,000EURに増やすのは、100EURを110EURに増やすよりも、純粋に娯楽の観点からするとずっと楽しそうなのです。